篠田千明 オンライン・パフォーマンス『5×5×5本足の椅子』(2020年)の記録映像の公開
2021年5月25日、アメリカのダンサー/振付家のアンナ・ハルプリンが100歳で逝去しました。「ポストモダンダンスの旗手」として知られるハルプリンは、1950年代以降のダンスに長きに渡って多くの革新をもたらした存在です。
YCAMでは、2020年11月に演出家・篠田千明の新作オンライン・パフォーマンス『5×5×5本足の椅子』を発表しました。この作品は、ハルプリンが1962年に発表したダンス作品『5本足の椅子』のためにハルプリンが作成したダンススコアを下敷きにした作品です。ダンス界にとどまらず、幅広い表現の分野に大きな足跡を残したハルプリンの逝去を悼み、『5×5×5本足の椅子』の全編の記録映像を、ハルプリンの101歳の誕生日となる前日の2021年7月12日までの期間限定で公開します。
篠田千明(構成/演出)のコメント
Hello Anna!
It's Chiharu Shinoda, a japanese theatre maker.
I wrote you to ask about /P/P/PThe Five Legged Stool/P/P/P and you suggested me about the book written By Janis Loss.
I had the opportunity to talk to Dr.Janice when I created the online piece made from your score in 2020. I saw pictures of your activities and the first performance, and heard interviews with the dancer who participated.
Then I also heard from Kei Takei, who lives in Tokyo, about how she met you and about the workshop at your studio in San Francisco.
What was written in the score as a symbol, existed as a performance before that, and there were people who received it. The past, as a matter of course fact, has emerged clearly.
The score is the same before and after your disappearance, but now that I have seen a glimpse of the past, I miss you like air.
The title of this piece is The 5x5x5 Legged Stool.
From now until your next birthday, this piece will be available online.
The more time and space I put into it, the more dimensions it will have, and I hope you will be able to see it somehow.
Ok, so see you then!
ハローアンナ!日本の演劇作家、シノダチハルです。
前に5本足の椅子について聞いたとき、ジャニスロスさんの書いた本について教えてくれましたね。
2020年にあなたのスコアから作ったオンライン作品を作ったときに、ジャニスさんとお話する機会があり、あなたの活動や初演時の様子を写真で見たり、参加していたダンサーのインタビューを聞きました。
それから東京に住んでいるケイタケイさんからも、あなたとの出会いの話や、サンフランシスコのスタジオでのワークショップの話を聞きました。
スコアに記号として書いてあったことが、それ以前にパフォーマンスとして存在しそれを受け取っていた人たちがいた。その当たり前の事実としての過去がはっきり現れてきました。
あなたがいなくなる前も後もスコアは変わらないけれど、その過去を垣間見た今、あなたがもういないことが空気のようにさみしいです。
今回の作品はThe 5x5x5 Legged Stool、というタイトルです。
これから次のあなたの誕生日まで、この作品をオンライン上で公開します。
時間と場所を掛けた分だけ次元が増えて、あなたもどうにか見れたらいいな。
それじゃあ、また!
福留麻里(ダンス/振り起こし補佐)のコメント
アンナ・ハルプリンさんのこと
アンナ・ハルプリン「THE FIVE LEGGED STOOL」(1962)のスコアに記されている指示は、見慣れたものに近い記号(例えば、楽譜でいうスラーのような)や、感覚的にキャッチしやすいもの(急ぐときは線がギザギザ、ゆっくりな時は線がなみなみしていたり)、また何を指示しているのかすぐにはわからないような言葉(/P/P/PSAND HOG/P/P/Pとか)など様々な要素で構成されている。ひとつひとつはなんとなく想像はつくけれど、それらの点と点を繋げて時間と空間を立ち上げ直した「5×5 Legged Stool」での作業は、結構な根気が必要だった。
作者の顔がよく見えないスコアからダンスを立ち上げていくことは今まで経験がなかった。
でもそれは面白くもあって、スコアを紐解き身体で辿りながら、「そもそもハルプリンさんはなんでこんなことしたんだろう」と疑問に思ったり、篠田さんと話し合ったり、調べたりしながらその時代のダンスの背景や、そこで行われたであろう試み、他分野のアーティストとの影響関係を知っていったり、スコアに用いられた記号と、ハルプリンさんの夫であり建築家であるローレンス・ハルプリンさんの設計図で用いられた記号との類似関係に気付いたりしていく中で、色々な発見や驚きが次々に生まれ、50年前以上前のアメリカのダンスの状況の中で、ハルプリンさんが考えたり試みたり拒んだりしていたかもしれないこと、そこから発生し続く様々な影響力についても少しずつ点と点が繋がるように、知り、考え、想像していく作業になった。そして、直接的な影響を受けたわけではなく、今まで特に自覚もしていなかったけれど、自分自身もその延長戦上で(もしくは隔世遺伝的に)ハルプリンさんの影響を受けダンスをしているということにも気付かされた。
ダンスにはどんな可能性があるのか。踊る時、舞台の上で、そして舞台以外の場所でどんな態度でいるか。
昨年、「5×5×5本足の椅子」を通じて、主に1960年代のハルプリンさんを巡る様々な方の声を聞いた。そのエピソードの数々は、スコアからだけでは見えなかったハルプリンさんの姿や思想を浮かび上がらせ見せてくれた。その姿はパワフルでチャーミングで、親しみと敬意を勝手に深めてしまっている。
篠田さんとずっと話していた、いつかこの作品をご本人にも観てもらいたい!という野望はついぞ叶わなかったけれど、これからもまだまだハルプリンさんに出会い直すことはできるのだろうと思う。
身体や思想が分散して広がっていくようなイメージで、色々な人の踊る身体や語る声が、ハルプリンさんが広げてくれたダンスの可能性を潜ませながら運んでいくのだと思う。
私もダンスに関わる1人として、自分なりに応答したい。
100年間お疲れ様でした。ありがとうございました!