田中幹生さんの山口案内
山口のこだわり、ものづくり、達人たち
田中幹生(たなか・みきお) 佐藤花菜(さとう・はな)
私は近年、YCAMの新しい作品に取り組むエネルギッシュなスタッフたちに魅力を感じサポートスタッフとして展覧会のナビゲーターをはじめとする様々な業務に従事しています。
2022年は「meet the artist 2022:メディアとしての空間をつくる」のプロジェクトメンバーとして関わったり、「やまぐちアートコミュニケータープログラム:架空の学校アルスコーレ」に参加したりしています。
もっと遡ると2012年にはアーティストの高嶺格さんの《いかに考えないか?》にシニアのパフォーマーとして参加したりもしました。
こうしてYCAMに関わったり作品を鑑賞したりワークショップに参加する中で、YCAMの作品を創る過程でのプロフェッショナルな技術や姿勢に感銘を受けました。
今回はそんなYCAMの作品づくりに通じると私個人が思う、こだわりの場所を巡ってみることにしました。
おすすめ旅程
1日目:こだわりが生まれる場所へ
永山本家酒造場
車で約30分
musée AUTOMATON
車で約30分
YCAM
車で約5分、徒歩約15分(湯田温泉入り口まで)
湯田温泉
銘酒「貴」を生んだ人と場所
まず初日の一番最初に案内するのは、山口の玄関口とも言える新山口駅や山口宇部空港からもそれぞれ車で30分の宇部市にある永山本家酒造場へ。宇部市二俣瀬を流れる厚東川の川縁に建つ旧二俣瀬村役場庁舎をリノベーションした社屋と工場で、対岸にはのどかな田園風景が見えます。
5代目の永山貴博社長は26歳で杜氏に就任。「料理と共に楽しめる酒」「気持ちをホッと癒してくれる純米酒」を目指して自ら酒米作りを手がけておられます。フランスのワイナリーにも再三訪問し、ワインの醸造を勉強するほか、土地づくり、環境づくり、理念などを養ってもらったと熱く語られました。
こだわりの酒「純米酒・貴」を試飲しながら「社長の心意気は?」と尋ねると、「作り手の顔が見える米づくりと酒づくり」との応え。水は秋吉台を源とする厚東川の伏流水を使い、米は山田錦。8割から4割に精米され研ぎ澄ましているとの事でした。
佐藤さんは一口試飲すると「とてもいい香り!飲みやすくて甘くて、あと味が凄く良いですね。
若い人にも好まれるお酒だと思います」と大満足。永山社長曰く、「山口県のお酒の美味しさは、国内外の人たちに自慢できます」
山口に新しい名所を創る!
次に案内するのは新山口駅から30分、秋穂にある「musée AUTOMATON(ミュゼ・オートマトン)」です。
こちらは2022年10月にオープン、オートマタ作家でオーナーの原田和明さんとめぐみさんご夫妻が笑顔で明るく迎えてくれました。
1階は原田さんの作品である木製のゲームやレトロゲームで遊ぶことができます。2階は原田さんがこれまで制作したオートマタ作品が展示されています。ミュージアムの前にある広場で野外ゲームを楽しむこともできます。
また酵母食研究家でもあるめぐみさんが運営するカフェも併設され、手作りのお菓子やお茶が楽しめるほか、ここでも手作りゲームやオートマタ作品で遊べます。ひとつひとつの作品に特徴があり、山口にゆかりあるテーマの作品が多く、伝統芸能の鷺の舞をヒントにした作品や中原中也の詩を題材にした作品など、ユーモアあふれる動きに思わず笑いを誘われます。
佐藤さんが「何処からアイデアが生まれるのですか?」と原田さんに尋ねると、人との会話や言葉がヒントだそうで、「いつも手離さない」というノートを見せてくださいました。そこにはびっしり慣用句から奥深い言葉まで......。
32歳でイギリスに渡り世界的に有名なオートマタ作家、マット・スミスのもとで1年間技術を学び、帰国後に現在の土地に移住、制作に打ち込んで来られました。以来、国内だけでなく海外からも次々と出展依頼があるそうです。
そしてこの度、秋穂に名所を作りたいと「musée AUTOMATON」を開館。
海がみえるこのミュゼは小さな子供から中高年まで楽しめるワンダーランドです。
おすすめ旅程
2日目:田中さん、こだわりの史跡案内
足湯
車で約10分~15分
常栄寺 雪舟庭
車で約5分
香山公園
散策しながら移動
洞春寺
車で約2分
山口県政資料館
車で約2分
八坂神社
徒歩約1分
一の坂川
雪舟の庭づくり
翌日、まず紹介するのは山口市宮野の常栄寺雪舟庭(国指定史跡・名勝)です。
この庭は名前の通り、室町時代中頃に画僧、雪舟によって作られた回遊式池泉庭園で、四季折々新緑、紅葉、冬の雪景色を楽しむことができます。雪舟が各地に造ったと伝えられる庭園の中でも最大級のものと言われております。この常栄寺のある地は元々この地を治めていた守護大名の大内政弘がお母様の菩提を弔うために建てた妙喜寺のあったところです。1467年頃に雪舟は中国の明に渡り宋、元の名作画に触れ、絵の修行後に帰国。
なぜ庭師でもない雪舟がこのような素晴らしい庭園を造る事ができたのか?それは中国で学んだ水墨画の影響だと言われています。国宝四季山水画をイメージしながら鑑賞するのも楽しいかもしれません。
また、枯山水と池泉式が併用されているのも他の庭園にない特徴です。住職の話によると当初は迎月亭があったとのこと。竜門の滝を見る位置が庭を見るポイントのひとつだとか。
雪舟が京都相国寺で絵の修行をした時、近くの金閣寺・銀閣寺や天龍寺の庭から影響をうけていると思われます。
そして、実に興味深い庭であることが分かります。
約500年前に造られた庭を散策するのも楽しいですね。
2020年からは、音楽家の坂本龍一さんが2013年にYCAMで制作/発表したインスタレーション作品《Forest Symphony》が公開され、常栄寺庭園を鑑賞しながら楽しむ事も出来ました。
先人がつくった歴史と文化の町、山口
室町時代に大内氏が風水を駆使して作ったとされる町、山口は第二次世界大戦の戦火を免れました。
室町時代の大内文化を象徴する瑠璃光寺五重塔、洞春寺観音堂や山門、八坂神社本殿の梁を支える蟇股から江戸時代末期の町屋、旧野村家住宅や十朋亭維新館、また、山口県政資料館や維新策源地の建造物など、一の坂川周辺を歩いてみると、当時を生きた人たちの想いを感じるものが数多く残っております。
古地図を片手に歩くと更に楽しめると思います。
旅を終えて
出会いと発見
実際に山口の人に会って、その人が魂を込めて作り上げた物や空間そのものを肌で感じることで、山口の魅力を再発見することのできた旅でした。
今回お話を聞かせていただいた皆さんは、山口という地を愛し、山口でしかできないこと、山口だからこそできることを模索し続け、その中で生まれてくる夢を叶え続けていて、本当に輝いて見えました。
完成されたものをただ受け取り、楽しむことは簡単ですが、その裏にはたくさんの人の思いがあり、ストーリーがあることは忘れてしまいがちです。
そのストーリーに触れることができた時に、より深く楽しむことができるのだと思いました。
山口の魅力がもっと伝わっていくといいなと思います。(佐藤)
案内人
田中幹生(たなか・みきお)
佐藤花菜(さとう・はな)