エミーリア・ガロッティ

ドイツ・ベルリンを拠点に才能ある若手演出家を次々と輩出する「ドイツ座」の演劇作品を上演する公演です。

今回上演する作品は、ドイツ文学史上に不朽の名をとどめる18世紀の劇作家G.E.レッシングによる戯曲「エミーリア・ガロッティ」。結婚を間近にした平民の娘エミーリアと、彼女に一目で恋に落ちた公爵、娘を連れ戻そうとする父親らが、人間の欲望や復讐心、迷い、そして決断といった様々な感情に翻弄されていく悲劇で す。かの森鴎外も「折薔薇」と題して翻訳しています。18世紀当初、多くの議論を巻き起こしたこの物語に、ベルリンで注目の新進演出家ミヒャエル・タールハイマーが挑みます。物語のエッセンスだけを抽出して 原作のストーリーを大胆にカット。ウォン・カーウァイ監督の映画「花様年華」の主題曲にのせて、登場人物が舞台を行き来しながらストーリーを展開させてい くという斬新でファッショナブルな演出を行い、話題を呼びました。ベルリンでは全公演即日完売。世界中の劇場で100回以上も上演されている注目の作品が、山口にやってきます。

ストーリー

エミーリアを一目見て恋に落ちた公爵が、ある朝、愛の言葉を耳元で囁く。侍従マリネッリの策略によって彼女の婚約者は殺害される。何も知らずに、公爵邸に連れてこられるエミーリア。一方、公爵に裏切られ、プライドを著しく傷つけられた元恋人オルシーナ伯爵夫人は、エミーリアの父親に公爵が娘を誘惑したことを告げ、復讐するように仕向ける。公爵を殺し、娘を連れ戻そうとする父親に、静かに対峙するエミーリアは、自らの中に官能を見出してしまったことを告白し、自分にピストルを渡すように請う。

「エミリーア・ガロッティ」YCAM公演によせて

ドイツ演劇界を代表し、クオリティの高い舞台を作り続けている演出家、ミヒャエル・タールハイマーの作風は、古典作品の現代化、また洗練された舞台美術などで知られている。今回「日本におけるドイツ」年の一環で、山口情報芸術センターで上演される「エミーリア・ガロッティ」も、そういった作風だ。奥行のある通路を俳優が行き来する舞台はファッション・ショーさえ思い出させる。しかし、タールハイマーの舞台は美しいばかりではない。確固とした「中心」を失った現代人の姿を見事に浮き上がらせるのだ。登場人物たちはいつもそれぞれ別の方向を見つめ、その視線が交わることは少ない。なかなか観る機会の少ない舞台が、日本で上演されるのを、とても楽しみにしている。

阿部初美（演劇集団円　演出家）