YCAM爆音映画祭2024

ヴィム・ヴェンダース監督が、テキサスの荒野を放浪する男の妻子との再会と別れを描き、1984年・第37回カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた傑作ロードムービー。雄大な風景とライ・クーダーによるスライドギターの音色が哀愁を誘う名作。

樋口泰人のコメント

荒野に響くライ・クーダーのギターの調べはもちろん、上空を飛ぶ鳥たちの声、吹き渡る風、走る車、夕暮れの街の騒音などが語られなかった男の暗闇を語る。それはまさにテキサス州パリの音。誰もの心に響く遠い記憶の音。

“レゲエの神様”と称されるボブ・マーリーの天才的な音楽センスの裏に隠された乱万丈な生涯を描く。1976年、ジャマイカは対立する二大政党によって分断状態にあった。国民的アーティストになっていたボブ・マーリーは、彼の人気を利用しようとする国内の政治闘争に巻き込まれていく。

樋口泰人のコメント

誰もが知るボブ・マーリーの歌の背景が語られることで、音への親密さは極まり、ボブ・マーリーの歌を聴くというスタンスから、まるでそれを観る自分の内部から歌が湧きあがってくるような、そんな錯覚に陥るはず。

砂に覆われた惑星“デューン”を舞台に、宇宙の未来を託された青年の運命を描くSFアドベンチャー。ベストセラー小説を原作に、「ブレードランナー 2049」のドゥニ・ヴィルヌーヴが監督と脚本を務め映画化した。誰も見たことのない、未来型映画体験へ！

樋口泰人のコメント

ハンス・ジマー独特の脳髄を摩り下ろすような音楽と宇宙の砂漠の風や砂嵐、そして地面を揺るがすサンドワームの響き。YCAMのスタジオAが「砂の惑星」になると言いたくなるかつてない体感とともに観てください。

Bunkamuraシアターコクーンが初めて挑んだライブ配信のための演劇作品を史上初スクリーン上映！2020年、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う最初の緊急事態宣言の最中、人々が物理的に集まることが制限される中で本作は制作された。構成・演出の梅田哲也はこの作品で読売演劇大賞スタッフ賞を受賞した。

樋口泰人のコメント

これは果たして映画なのか演劇なのかあるいは大ホールを使った大人の遊びなのか。われわれの常識の境界線をもてあそぶような構造と作品への距離感が作り出す小さくて大きな空間。音はその共犯者として時間と空間の伸縮を増幅する。

2010年3月31日正午。突然の解散発表。約20年に渡る活動に終止符を打ったロックバンド、ゆらゆら帝国。2009年4月26日、日比谷野外大音楽堂で行われた、ゆらゆら帝国結成20周年記念ライブ『20th Anniversary "LIVE2009"in YAON』がスクリーンに蘇る！

樋口泰人のコメント

夕暮れから夜にかけての空や大気の変化とともにわれわれをかなたの世界へと導く音と映像。おそらくこの音は宇宙のかなたでこの映像とともにいまだに鳴り響き、忘れたころに地上に降り注ぐ。この奇跡の時をお見逃しなく。

月に一度、PMS（月経前症候群）でイライラが抑えられなくなる藤沢さんと、パニック障害を抱える同僚の山添くん。2人は、自分の症状は改善されなくても相手を助けることはできるのではないかと考えるようになり…。生きるのが少し楽になる、心に優しい物語。

樋口泰人のコメント

地上に響く音が宇宙からのメッセージのように人々の心に響く。時を超え空間を超えたその響きをわれわれは観ることになる。目を澄ませてじっと画面を見つめるとき、われわれにも宇宙からのメッセージが聞こえてくるはずだ。

音楽家でアニメーション作家のピエール・フォルデス監督が、村上春樹の６つの短編「かえるくん、東京を救う」、「バースデイ・ガール」、「かいつぶり」、「ねじまき鳥と火曜日の女たち」、「UFOが釧路に降りる」、「めくらやなぎと、眠る女」を再構築した、村上春樹原作初のアニメ映画。

土居伸彰のコメント

ピエール・フォルデスの完全監修により、単なる吹替版ではなく仏英に続く3番目のオリジナル版となったこの日本語版は、不確かに揺らぐキャラクターたちの心のなかに、そっと、深く、鋭く降りていく。そのざわめきの音が爆音で拡張されていく。

『ニーチェの馬』を最後に56歳という若さで映画監督から引退したタル・ベーラ。本作は伝説的な7時間18分の『サタンタンゴ』の直後に発表された。どこからともなく移動サーカス団がやってきた町を舞台に、幻想とバイオレンスが渦巻くモノクロームの異様な映像世界が繰り広げられる。

樋口泰人のコメント

ゆっくりと流れる時間の緩やかな揺れに乗って聴こえてくる音はわれわれの細胞のひとつひとつに浸み入り、時間の感覚と視覚を静かにそして決定的に変える。この映画の鑑賞後の現実世界もまったく違うものに見えてくるはず。

伝説のロックンロールバンド“ミッシェル・ガン・エレファント”の軌跡を追ったドキュメンタリー。最新映像技術で2003年10月11日のラストライブとその舞台裏が迫力の爆音5.1chサウンドと共にスクリーンで蘇る。最後の日のすべてを語りロックンロールの息遣いと鼓動を伝える。

樋口泰人のコメント

バウスシアターでの爆音上映の常連作品のひとつ。アベフトシ追悼として始まった上映だが今年はチバユウスケ追悼となってしまった。ラストライヴの幕張アリーナ、その広大な視界とともに最後の音を感じてもらえたら。

樋口泰人のコメント

変容し続け更新され続ける映像とともに音もそのたびに生まれ変わる。その不安定な音の連なりは気づくと太く大きな流れとなっている。巻き込まれたわれわれもまた、自身の作り出す流れとなって新たな人生を歩むことになる。

ブラジル出身の気鋭アレ・アブレウ監督が、巨人による破壊から魔法の森を救うため、仲間と謎の「ペルリンプス」を探す壮大な冒険を描いたアニメーション。鮮やかな色彩美と全人類のテーマ、そして慈愛に満ちたストーリーが見るものの心を奪う。次世代につなげたい宝玉の1作！

土居伸彰のコメント

優れたブラジル音楽の血脈流れるこの監督の新作は、ミルトン・ナシメントに加えボディ・パーカッションが鮮やかに光り輝く森の景色を彩る。子供の瞳を通じて眺める世界の姿が、私たちの心の炎を燃やしてくれる、そんな一本。

人気女性コミック『違国日記』の映画化。大嫌いだった姉を亡くした35歳の小説家・高代槙生は、姉の娘である15歳の朝を引きとることになる。性格も異なる２人の奇妙な交流を軸に、他人との関わり合いや大人が抱える正直な悩みを鋭くも優しい視点で描く。

樋口泰人のコメント

登場人物たちが不意に歌い始めるとき、おそらく何か別の映画のスイッチが入る。そこから映画はさらに加速し思わぬ展開をすることがある。映画が実人生に向けて開かれると言ったらいいか。思わず一緒に歌いたくなる。

新世紀を迎えたばかり2001年の台北で刹那的に生きる若者たちを描いた青春映画。監督は「悲情城市」のホウ・シャオシェン。2001年カンヌ国際映画祭で高騰技術院賞、台湾金馬奨では撮影賞、オリジナル作曲賞、音響賞を受賞した。

樋口泰人のコメント

まさか侯孝賢の映画で電子音楽なこんな風に鳴り響くとはだれも思っていなかったはずだ。しかし侯孝賢とはそういう人なのだ。音楽だけではない音の映画。20世紀から21世紀への変わり目で響く不協和音を改めて感じてほしい。