YCAM名画座 vol.1

「彼女は16歳ぐらいに見えた」。質屋を営む中年男は妻との初めての出会いをそう回想する。質素ながらも順調そうに見えた結婚生活だったが、妻のまなざしの変化に気づいたとき、夫の胸に嫉妬と不安がよぎる。

ドストエフスキーの短篇のなかでも最高傑作と呼ばれる「やさしい女 幻想的な物語」を原作に、プロットを守りながらも、物語の舞台をロシアから現代（60年代後半）のパリへと移し、大胆な翻案を施した。極端なまでに台詞を排した本作は、ブレッソン特有のふたりの男女の視線のドラマともいえ、サンダの視線の鋭さ、恐ろしさが彼女の心境の変化を物語る。

『ラストエンペラー』、『ラスト・タンゴ・イン・パリ』などで知られるベルナルド・ベルトルッチ監督作品の中でも未だ最高傑作との呼び名の高い本作。イタリア文学の巨人アルベルト・モラヴィアの「孤独な青年」をもとに作られた本作は、第二次大戦前夜のヨーロッパを舞台に、幼少期のトラウマを抱える青年が、ファシストの暗殺者へと変貌を遂げるさまをクールな映像美で描く。

『やさしい女』の翌年に製作された本作では、サンダは打って変わって妖艶な教授夫人を演じ、大ブレイクを果たし、以後、活躍の場を広げてゆく。フランシス・フォード・コッポラ監督『地獄の黙示録』（1979）などでも知られる名カメラマン：ヴィットリオ・ストラーロの流麗なカメラワーク、1930年代の美しいファッションにもご注目ください。