映画におけるリアリズムへの問い―ストローブ＝ユイレ、あるいはジャン・ルノワール

ストローブ＝ユイレ（S=H）の近年の最新作を含めた貴重な作品群を紹介する。

映画制作のパートナー、ダニエル・ユイレが06年に逝去して以降も、ジャン＝マリー・ストローブは、その苛烈なリアリズムの視線をとどこおらせることなく作品を発表している。04-08年の間に制作された、今回上映する4作品のあまりの多彩さ、題材、素材、主題の変奏の豊穣さこそ、S=Hにおけるリアリズムとは何かを探る鍵となるものであるだろう。リアリズムにおいて映画になし得ることとは何か。S=Hが、独立した映画制作を始めるおよそ30年前に製作された、ジャン・ルノワールの「素晴らしき放浪者」（32）は、これこそルノワールという、この作家特有のあらゆる芳醇な要素が共存し、エレガントに解け合った作品である。ルネ・フォショワ原作の戯曲「水から救われたブーデュ」を踏まえて自由に翻案されたストーリーをもとに、そこには過剰な演劇的演出要素と、生の現実への視線としてのリアリズムが混在し、多面的に引き裂かれている。ルノワールにおいて重要な装置＝窓やドアを巡ってやりとりされる、対極的な２つの世界の交濁に、たぶんS=Hは魅了されたに違いない。（その遠方には、ゴダールの「ヌーヴェルヴァーグ」（90）が、確信的存在として響いてくるだろう。）S=Hとルノワールを併映する美しさを感じながら、映画におけるリアリズムを考えてみる企画。参考作品として、カフカの原作を、ストーリー映画としてこれ以上にないほど厳密に設計したS=Hの「アメリカ（階級関係）」を併映（DVD上映）する。