イカとクジラ

1986年、ブルックリン、パークスロープ。ある日突然、両親から「離婚する」と宣言された、16歳のウォルトと12歳のフランクの兄弟。思いもよらぬ家族の崩壊、ショックの中で兄弟がようやく口にできたのは「猫はどうするの？」。やがて、両親それぞれの家を行ったり来たりする毎日を送ることになった兄弟は、父と母を見つめなおしていく……。
本作は、映画、文学、ロックへのオマージュ満載で、観客を楽しませてくれる。物語のディテールがリアルなその訳は、舞台であるパークスロープ地区が、バームバック監督が、実際に1980年代に少年時代を過ごした場所であること。撮影も監督の幼馴染みの家が使われていて、作家やアーティストが多く暮らすという独特な雰囲気や、80年代のニューヨーク・カルチャーがさりげなくちりばめられている。そして重要な役割を担っているのが、くりかえし挿入されるピンク・フロイドの名曲「Hey You」。ひとつの家族を子供たちの視点から描いた本作は、「親」という絶対的な存在の両親も、実は欠点や迷いを持つひとりの人間であるという普遍性を新鮮な切り口で語り、「イカとクジラ」という不思議なタイトルとともに、忘れられない暖かさを残してくれるだろう。
解説：大久保雅子（コミュニティシネマ／プログラムコミッティ）