文芸映画名作選

大学生と旅芸人である踊り子との間に芽生える淡い恋心を描く。何度も映画化されている名作で、本作は4度目の映画化にあたる。本作の特長は、大学教授が若き頃を回想する、という形式をとっていたり、原作中の有名な台詞、「いい人は、いい人ね。」をシナリオから意図的にはずしていることからも、西河克己監督は、新しい「踊子」像を目指したことがうかがえる。また、他作と比べてセンチメンタルに仕上がっている。

病床にある父を裏切り、不義を続けた好色な母を恨む娘が、母の相手の男を次から次へと誘惑、殺害していく復讐劇。制作日数に六ヶ月をついやし、当時破格の金額で制作された大作。名匠・野村芳太郎監督の巧妙な演出をはじめ、川又昇カメラマンによる主人公の心理描写をあらわした効果的な色彩による独自の撮影は、岩下志麻の好演をより一層魅力溢れるものとした。

貧しい家庭に生まれ育った遊女と吃音の為に誰からも相手にされなかった修行僧の悲恋を戦前からのキャリアを持つ名匠・田坂具隆監督が、遊郭の佇まいや物語の背景など細部にわたってこだわり、詩情たっぷりに描く。原作は水上勉の同名小説であり、修行僧のモデルは金閣寺放火事件の犯人。本作は、この修行僧が通った遊女を主人公として扱っている。（ちなみに同じ題材を扱ったのが三島由紀夫原作「金閣寺」、主人公は修行僧）キネマ旬報ベストテン第3位にも入った秀作。

病弱な妻をかかえた男と恋におちた、京染屋の娘の心の葛藤を描く。伝統的な世界で生きる女性の中に新しい時代に生きようとする女性の二面性を感じさせ、見事に演じた山本富士子は本作を契機にスターダムにのし上がる。宮川一夫カメラマンによる美しい京都の風景は勿論、山本の魅力を引き出す為に計算された色彩効果も素晴らしく、巨匠・吉村公三郎初のカラー作品に相応しい大傑作となった。キネマ旬報ベストテン第2位。