シリーズ映画史を読み解く#7
溝口健二監督特集
人間の深淵、映画の深淵を描き出した「溝口」
映画とはどのような発想によってこのような再現芸術として発展・定着したのか?
その100年余の過程を振り返るために、今年度の「シリーズ映画史を読み解く」では、映画における常識的な説話的展開技法を凝縮あるいは圧縮し、あえて踏み外す創意=フィルムのつくりだす持続の空間・時間に焦点を当て、映画史を読み解く一つの鍵とする。
選定コンセプト
堀家敬嗣(山口大学教育学部講師)新しい(現代的な)映画の特徴は多々ありますが、映画独特の時間性「退屈」さもまたそのひとつと考えられます。では、「退屈」な映画とはなにか、すなわち、映画にとっての「退屈」さとはなにか、映画が「退屈」であるとはどういうことなのか。そうした問いによって、映画における古典性と近代性を隔てるものを規定していこうという試みです。
06年は、日本映画史上の最大の巨星の1人、溝口健二の没後50年となる記念の年にあたり、現存する全作品上映を含むイベントが各地で行われました。YCAMではその一環として、溝口作品のニュープリントを中心に12作品をセレクトし、特集上映します。入江たか子、山田五十鈴、田中絹代、小暮実千代、香川京子、若尾文子といった大女優に対しても、妥協を許さぬ演出を施し、人間の深淵を描き出したといわれる溝口作品。その神髄を十分にご鑑賞いただければと思います。
国際的な評価としての溝口は、ヴェネツィア国際映画祭で1952年『西鶴一代女』によって国際賞を獲得し、脚光を浴びます。その後同映画祭で、1953年『雨月物語』、1954年『山椒大夫』と連続して銀獅子賞を獲得し、映画史上における映画作家「溝口」として、確固とした評価を世界的に広めます。
飽くなき探求という言葉が相応しい芸術家、それが溝口健二と言えるかもしれません。58歳の生涯(1898年東京浅草生まれ、1956年京都に没)の中で、総作品数は90本ですが、そのうち57本が亡失しており、現存作品は33本となっています。このように、実は溝口の全貌はいまだ隠されたままであり、想像の彼方にある全体像を分析しつつ、現存作品の立つ位置を思考する余裕を持つこと、それが現在のわれわれに残された特権と言えるでしょう。溝口作品ほど、新たなスタイルと緻密なリアリズムをつねに求め続けて、苦闘していくフィルモグラフィーは他にありません。サイレント時代からシネマスコープ時代前夜まで、史劇から現代劇まで、確立と破壊が、映画的な探求の中で繰り返されていきます。変転していく要素と通奏されるもの。そのダイナミックな振幅、深淵は、観る者を激しく揺さぶることでしょう。新たなる「溝口」を、この特集上映でぜひ発見してみてください。
上映作品12作品
作品上映
赤線地帯
作品上映
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赤線地帯
東京・吉原の特殊飲食店『夢の里』を舞台に娼婦のたちの 悲喜様々なエピソードを豪華キャストでリズミカルに描いた。
売春防止法をめぐる議論が最盛の頃に製作され、 興行的にも成功した溝口健二遺作。
1956年/85分/モノクロ /大映東京
ニュープリント
脚本 : 成沢昌茂 (一部、芝木好子『洲崎の女』による)
撮影 : 宮川一夫
美術 : 水谷浩
音楽 : 黛敏郎
出演 : 京マチ子、若尾文子、木暮実千代、三益愛子、町田博子
作品上映
滝の白糸
作品上映
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滝の白糸
検事を目指す青年と彼を支える水芸人・白糸の哀しき運命。
回想形式を多様した意欲作であり、 溝口のサイレント期を代表する名作。
1933年/101分/モノクロ・サイレント/入江プロ
東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品
ニュープリント
原作 : 泉鏡花 『義血侠血』
撮影 : 三木茂
出演 : 入江たか子、岡田時彦
作品上映
夜の女たち
作品上映
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夜の女たち
敗戦直後の大阪で生きる3人の女性の壮絶な生き様を描く。
荒廃した戦後日本の世相を表した ドキュメントとしても貴重な作品。
1948年/73分/モノクロ/松竹京都
東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品
ニュープリント
原作 : 久板栄二郎(『女性祭』)
脚本 : 依田義賢
撮影 : 杉山公平
美術 : 水谷浩
音楽 : 大沢寿人
出演 : 田中絹代、高杉早苗、角田富江
作品上映
近松物語
作品上映
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近松物語
不義密通の嫌疑をかけられた経師屋の内儀・おさんと手代・茂兵衛の哀しく過酷な道行。
大スター長谷川一夫をむかえた後期大映作品の中でも完成度の高い名作。
1954年/103分/モノクロ/大映京都
ニュープリント
原作 : 近松門左衛門 (『大経師昔暦』)
劇化 : 川口松太郎(『おさん茂兵衛』)
脚本 : 依田義賢
撮影 : 宮川一夫
美術 : 水谷浩
音楽 : 早坂文雄
出演 : 長谷川一夫、香川京子、南田洋子、進藤英太郎
作品上映
武蔵野夫人
作品上映
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武蔵野夫人
ある夫婦と戦争から帰還した美しい甥との三角関係が 武蔵野の美しい風景を舞台に繰り広げられていく。
複雑な周囲の人々との相関をおり込みながら、 破局へと展開していく、メロドラマ。
1951年/88分/モノクロ/東宝
原作 : 大岡昇平
脚色 : 依田義賢
潤色 : 福田恆存
撮影 : 玉井正夫
美術 : 松山崇
音楽 : 早坂文雄
出演 :田中絹代、轟夕起子、森雅之、片山明彦、山村聡
作品上映
マリヤのお雪
作品上映
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マリヤのお雪
西南戦争の最中に乗合馬車という空間と時間がおりなす人間模様を描く。
川口松太郎原作の舞台用脚本『乗合馬車』を映画化、 原作の前半部分は、モーパッサン『脂肪の塊』を翻案した文学作品である。
1935年/84分/モノクロ/第一映画/16ミリ
原作 : 川口松太郎 (『乗合馬車』、前半モーパッサン『脂肪の塊』に基づく)
撮影 : 三木稔
出演 : 山田五十鈴、原駒子、夏川大二郎、中野英治
作品上映
雪婦人絵図
作品上映
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雪婦人絵図
美しい華族の娘・雪が傍若無人な夫と別れたくても 別れられず、ついには、破滅への道をたどっていく。
溝口作品の中で最も官能的といわれる傑作。
1950年/85分/モノクロ/新東宝・滝村プロ
ニュープリント
原作 : 舟橋聖一
脚本 : 依田義賢/舟橋和郎
撮影 : 小原譲治
美術 : 水谷浩
音楽 : 早坂文雄
出演 : 木暮実千代、上原謙、浜田百合子、久我美子
作品上映
祇園の姉妹
作品上映
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祇園の姉妹
京都祇園芸者である古風な姉と現代的な妹。
それぞれが、したたかに逞しく生きようとする姿を対比的に描く。
日本の封建的な社会に対する批判をも含む溝口戦前の代表作にして日本映画に真のリアリズムを確立 したとされる秀作。
1936年/69分/モノクロ/第一映画
原作 : 溝口健二
脚色 : 依田義賢
撮影 : 三木稔
出演 : 山田五十鈴、梅村蓉子、久野和子
作品上映
新・平家物語
作品上映
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新・平家物語
吉川英治の原作をシリーズ化した第1作目。
貴族社会から武家社会へ移りゆく平安時代末期を舞台に 若き頃の平清盛の出生をめぐる葛藤と成長を描く。
デビューして1年あまり、市川雷蔵の出世作。
1955年/107分/カラー/大映京都
ニュープリント
原作 : 吉川英治
脚本 : 依田義賢/成沢昌茂/辻久一
撮影 : 宮川一夫
美術 : 水谷浩
音楽 : 早坂文雄
出演 : 市川雷蔵、久我美子、林成年、木暮実千代
作品上映
山椒大夫
作品上映
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山椒大夫
平安末期、人買いの罠にかかった親子がひきさかれ、再会するまでの壮絶なドラマを 完成された映像美と音、田中絹代の演技など見所のつきない傑作。1954年ヴェネチア国際映画祭サン・マルコ銀獅子賞を受賞、海外でも高い評価を受け、 ゴダールやジャン=マリ・ストローブなど、多くの映画人に多大なる影響を与えた。
1954年/124分/モノクロ/大映京都
ニュープリント
原作 : 森鴎外
脚本 : 八尋不二、依田義賢
撮影 : 宮川一夫
美術 : 伊藤憙朔
音楽 : 早坂文雄
出演 : 田中絹代、花柳喜章、香川京子、進藤英太郎
作品上映
西鶴一代女
作品上映
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西鶴一代女
老娼・お春が、五百羅漢の仏像に自分がかかわりあった男たちの顔を重ね、 不幸な自分の流転の人生を回想する。1952年ヴェネチア国際映画祭国際賞を受賞。 溝口健二の名を世界的に知らしめた作品。
1952年/136分/モノクロ/新東宝・児井プロダクション
ニュープリント
原作 : 井原西鶴 (『好色一代女』)
脚本 : 依田義賢
監修 : 吉井勇
撮影 : 平野好美
美術 : 水谷浩
音楽 : 斎藤一郎
出演 : 田中絹代、山根寿子、三船敏郎、宇野重吉
作品上映
楊貴妃
作品上映
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楊貴妃
豪華な中国宮廷を舞台に玄宗皇帝に愛された絶世の美女・楊貴妃を めぐる国の混乱と結末を玄宗の回想で物語る歴史大作。歴史的な考証の徹底と独特の色彩で高く評価された、溝口初のカラー作品。
1955年/91分/カラー/大映東京・香港ショウブラザーズ
ニュープリント
脚本 : 陶秦、川口松太郎、依田義賢、成沢昌茂
撮影 : 杉山公平
美術 : 水谷浩
音楽 : 早坂文雄
出演 : 京マチ子、森雅之、山村聡
上映/イベントスケジュール
上映期間:2007年5月4日(金)〜27日(日)
日付 | 時間 |
上映作品 イベント |
5月4日(金) | 14:00〜15:25 |
赤線地帯 |
5月4日(金) | 19:00〜20:41 |
滝の白糸 |
5月5日(土) | 14:00〜15:41 |
滝の白糸 |
5月5日(土) | 16:30〜17:43 |
夜の女たち |
5月5日(土) | 19:00〜20:25 |
赤線地帯 |
5月6日(日) | 11:00〜12:25 |
赤線地帯 |
5月6日(日) | 14:00〜15:13 |
夜の女たち |
5月11日(金) | 14:00〜15:43 |
近松物語 |
5月11日(金) | 19:00〜20:28 |
武蔵野夫人 |
5月12日(土) | 14:00〜15:24 |
マリヤのお雪 |
5月12日(土) | 16:30〜17:58 |
武蔵野夫人 |
5月12日(土) | 19:00〜20:43 |
近松物語 |
5月13日(日) | 11:00〜12:24 |
マリヤのお雪 |
5月13日(日) | 14:00〜15:28 |
武蔵野夫人 |
5月18日(金) | 14:00〜15:25 |
雪婦人絵図 |
5月18日(金) | 19:00〜20:09 |
祇園の姉妹 |
5月18日(金) | 20:20〜21:20 |
堀家敬嗣レクチャー「溝口映画を俯瞰する」 関連イベント |
5月19日(土) | 14:00〜15:09 |
祇園の姉妹 |
5月19日(土) | 16:30〜17:55 |
雪婦人絵図 |
5月19日(土) | 19:00〜20:47 |
新・平家物語 |
5月20日(日) | 11:00〜12:09 |
祇園の姉妹 |
5月20日(日) | 14:00〜15:47 |
新・平家物語 |
5月25日(金) | 14:00〜16:04 |
山椒大夫 |
5月25日(金) | 19:00〜21:16 |
西鶴一代女 |
5月26日(土) | 13:00〜16:30 |
柳町光男+堀家敬嗣レクチャー「映画監督が読み解く溝口作品」 関連イベント |
5月26日(土) | 14:00〜16:16 |
西鶴一代女 |
5月26日(土) | 17:00〜19:04 |
山椒大夫 |
5月26日(土) | 19:30〜21:01 |
楊貴妃 |
5月27日(日) | 11:00〜13:16 |
西鶴一代女 |
5月27日(日) | 13:00〜16:30 |
柳町光男+堀家敬嗣レクチャー「映画監督が読み解く溝口作品」 関連イベント |
5月27日(日) | 14:00〜15:31 |
楊貴妃 |
作品が見つかりませんでした。 |
チケット情報
基本情報
上映期間 |
2007年5月4日(金)〜27日(日) |
上映作品 | 12作品 |
関連イベント | 2イベント |
チケット情報 | 有料 |
クレジット |
フィルム・写真提供:角川ヘラルド映画株式会社/東宝株式会社/松竹株式会社/国際放映株式会社/東京国立近代美術館フィルムセンター |