ツィゴイネルワイゼン

1023年生まれの鈴木清順は独特の死生観、映像美、奇抜な発想で、82歳の今日でも熱狂的なファンを持つ現役監督です。私が初めて鈴木の作品を観たのは、「けんかえれじい」（1966）。
破天荒な内容でありながら、その圧倒的な面白さに即座に鈴木信者になってしまいました。しかし、その後の鈴木は「わからない映画を撮る監督」として以後10年間、全く映画を撮る事を許されませんでした。どんな思いで彼は10年を過ごしたのでしょうか。そして、10数年後に撮った作品がこの「ツィゴイネルワイゼン」。公開当時、通常の映画館ではなく100席ぐらいしかない移動式のテントで全国を上映して廻りました。そして、圧倒的な内容の面白さが口コミで広がり、ついにはその年の映画賞を総なめにしたのです。日本アカデミー賞授賞式の時、鈴木は大声で叫びました。「こんな賞をよこすより、俺に映画を撮らせてくれ！」まさに魂の叫びでした。この「ツィゴイネルワイゼン」には鈴木の全身全霊が注ぎ込まれています。あの世とこの世。夢と現実が凄まじいような映像美のなかで交錯する、まさに「わからない映画」です。そして、これこそが鈴木の真骨頂。この映画を理解しようとしてはいけません。天才鈴木ワールドにどっぷりと浸かるだけでいいのです。これがまさに「映画」そのものなのですから。解説：小澤由己子（コミュニティシネマ／プログラムコミティ）