イラン映画の光芒／キアロスタミとマフマルバフ

映画芸術の現在性において、中心的な輝きを放っていると言ってもよい<イラン映画>を特集します。

もちろんイランが、ハリウッド的な意味での映画産業の中心ではありません。しかし、なぜ今イラン映画が、かくも神々しく輝くことができるのか。映画誕生100年を超えた現在、その存在は、われわれが映画に向ける眼差しの質や要求に関して、洞察しなければならない本質的示唆を与えてくれるのかもしれません。産業的高度化や洗練と、フィルムという物質的、光学的、音響的メディアが、人間の知覚を通過して生み出す創造力の豊穣さとが、今ではイコールには結ばれないこと、辺境性の中にこそ都市性が輝きを増し、フィクションがドキュメントに侵入する際の映画的リアリズモの再来を、イラン映画は骨太に、繊細に語りだします。
優れた映画作品を、多岐にわたって生み出す現代イラン映画を、数作で回顧することはできませんが、今回は、イラン映画の中心的な存在であるアッバス・キアロスタミ作品と、マフマルバフ・フィルム・スクール出身のモフセン・マフマルバフの2人の娘姉妹、サミラ・マフマルバフ、ハナ・マフマルバフ作品の3作を選びました。この3作では、社会的に制約を受けるイスラム圏での女性の存在を、行為者として物語の中心に据えており、他者との関わりにおいて映画が輝きだす瞬間の奇跡的美しさを発見する意味で、<表現者としての女性>にもフォーカスをあてる試みです。

シリーズ映画史を読み解く

映画とはどのような発想によってこのような再現芸術として発展・定着したのか?その100年余の過程を振り返るために、今年度の「シリーズ映画史を読み解く」では、映画における常識的な説話的展開技法を凝縮あるいは圧縮し、あえて踏み外す創意=フィルムのつくりだす持続の空間・時間に焦点を当て、映画史を読み解く一つの鍵とする。

選定コンセプト

堀家敬嗣（山口大学教育学部講師）
新しい（現代的な）映画の特徴は多々ありますが、映画独特の時間性「退屈」さもまたそのひとつと考えられます。では、「退屈」な映画とはなにか、すなわち、映画にとっての「退屈」さとはなにか、映画が「退屈」であるとはどういうことなのか。そうした問いによって、映画における古典性と近代性を隔てるものを規定していこうという試みです。