シリーズ映画史を読み解く#5
成瀬巳喜男監督特集
成瀬映画を俯瞰する……光の設計の美学
2005年は、多くの日本映画の巨匠が生誕100周年を迎えています。その中でも最も重要な存在にあたるのが、近年国際的にも再評価が著しい成瀬巳喜男です。この度、YCAMでは記念企画の一環として成瀬映画作品10本を特集上映します。
日本映画は、小津、溝口、成瀬という飛び抜けた巨星を映画芸術史上に生み出しました。それは、イタリアルネッサンスの3大巨匠、レオナルド、ミケランジェロ、ラファエッロに匹敵する世界的な芸術遺産と言っても過言ではありません。その理由として、サイレントからカラーまで、フィルム(映画)というメディアと、スタジオシステムの盛衰を目のあたりに作品制作をおこない、あらゆる観点から造形的近衛の頂点を極め抜いた作品を生みだしたこと、3人が同時代に相互に意識しあいながら、独自のスタイルを探求し、それは他者にはまったくコピー不可能である点、などがあげられるでしょう。現在では、もはや見ることができない、日本映画最盛期の各映画会社のスタジオシステムが生みだし得た構築的かつ繊細な空間表現は、この3巨匠の才能を得ることで、永遠に人類の芸術遺産として刻印される輝きを放つことになりました。
中でも成瀬作品は、女優の人間的存在の美しさを際立たせる面で、特別な美質を発揮しています。成瀬組と呼ばれた撮影・美術・照明は一貫したセットのすばらしさや、神秘的とさえいえる映像の光学的空間処理、人間の表情と光線の関係の考察は唯一無二といえるでしょう。全編がよどみなく流れていく映像と音響のリリシズムの調合も成瀬ならではの特質です。今回は特に、関係機関の協力によって、普段映画館では、ほとんど見ることができない非常に貴重な作品を上映リストに多く選んであり、成瀬芸術の精粋を堪能していただけるプログラムです。
シリーズ映画史を読み解く
映画とはどのような発想によってこのような再現芸術として発展・定着したのか?
その100年余の過程を振り返るために、今年度の「シリーズ映画史を読み解く」では、映画における常識的な説話的展開技法を凝縮あるいは圧縮し、あえて踏み外す創意=フィルムのつくりだす持続の空間・時間に焦点を当て、映画史を読み解く一つの鍵とする。
選定コンセプト
新しい(現代的な)映画の特徴は多々ありますが、映画独特の時間性「退屈」さもまたそのひとつと考えられます。では、「退屈」な映画とはなにか、すなわち、映画にとっての「退屈」さとはなにか、映画が「退屈」であるとはどういうことなのか。そうした問いによって、映画における古典性と近代性を隔てるものを規定していこうという試みです。(堀家敬嗣/山口大学教育学部講師)
上映作品9作品
作品上映
君と別れて+夜ごとの夢 2作品上映
作品上映
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君と別れて+夜ごとの夢
作品上映
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君と別れて
芸者・照菊と芸者の息子・義男がこころを通わせ、必死に生きようとするが、貧しいが故のさまざまな事件が2人をのみこんでいく。成瀬サイレント時代の代表作。
1933年/72分/モノクロ/サイレント/16ミリ/松竹
原作:成瀬巳喜男
撮影:猪飼助太郎
出演:吉川満子、磯野秋雄、水久保澄子
作品上映
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夜ごとの夢
『君と別れて』と並ぶ成瀬のサイレント時代の秀作。夫が甲斐性なしでも、親子三人で生きていくことが幸せなのだと、ささやかに生きようとするおみつにふりかかる苦難。
1933年/64分/モノクロ/サイレント/35ミリ/松竹
原作:成瀬巳喜男
脚本:池田忠雄
撮影:猪飼助太郎
出演:栗島すみ子、小島照子、斎藤達雄
作品上映
噂の娘
作品上映
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噂の娘
伝統ある東京下町の酒店を舞台に、複雑な家庭事情における人間模様とそれぞれの心の揺れを対照的な性格をもつ姉妹を中心に描く。
チェーホフの「桜の園」から発送を得たトーキー初期の作品。
1935年/54分/モノクロ
原作・脚本:成瀬巳喜男
撮影:鈴木博
出演:千葉早智子、梅園龍子、伊藤智子、汐見洋
作品上映
女人哀愁
作品上映
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女人哀愁
見合い結婚で、裕福な大家族に嫁いだ広子。家族はみんな好き勝手に、広子をこきつかい始め、雑用は増えるばかりだった。
主役の入江たか子は、家風に反発をおぼえつつも、従わざるを得ない女性が自立へと目覚めていく様子を見事に演じた。
1937年/74分/モノクロ
監督:成瀬巳喜男
原作・脚本:成瀬巳喜男 田中千禾夫
撮影:三浦光雄
音楽 :江口夜詩、西條八十(作詩)、江口夜詩(作曲)
主題歌=「黒髪に泣く」「胡蝶日記」
出演:入江たか子、堤眞佐子、神田千鶴子
*東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品
作品上映
まごころ
作品上映
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まごころ
小学校6年生の富子は同級生の信子と大の仲良し。ある日、2人はそれぞれの親の昔の関係を知り、幼心を揺らす。対照的な個性を持つ2人の少女の眼差しが印象にのこる作品。
1939年/67分/モノクロ
監督・演出:成瀬巳喜男
脚本:成瀬巳喜男
原作:石坂洋次郎 『まごころ』
撮影:鈴木博
出演:入江たか子、高田稔、悦ちゃん、加藤照子
*東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品
作品上映
旅役者
作品上映
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旅役者
旅まわりの一座の団員、俵六と仙平は馬の脚役をし、誇りをもって演じているが、大事な商売道具の馬の着ぐるみを壊されてしまう。困った団長は本物の馬を起用し、大好評を得てしまう。村まわりの一座の笑いと哀愁が漂う喜劇。
1940年/70分/モノクロ
監督・脚本 :成瀬巳喜男
原作 :宇井無愁『きつね馬』
撮影:木塚誠一
出演:藤原鶏太(釜足)、柳谷寛、高勢實乘
作品上映
山の音
作品上映
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山の音
息子との仲が冷えきっている嫁とそんな不憫な嫁を気にかける舅との心の交流を描く。原節子の美しさもさることながら、成瀬自ら絶賛したという山村聰の名演が印象にのこる文芸作。
1954年/94分/モノクロ
監督:成瀬巳喜男
原作: 川端康成『山の音』
脚本: 水木洋子
撮影: 玉井正夫
出演:原節子、山村聰、上原謙
作品上映
浮雲
作品上映
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浮雲
終戦後の混乱の中、別れても、まためぐり会い、寄り添ってしまう男女の物語。成瀬の代表作であり、日本映画の傑作。映画史に残るラストシーンは必見である。
1955年/122分/モノクロ
監督:成瀬巳喜男
原作: 林芙美子 (『浮雲』)
脚本: 水木洋子
撮影: 玉井正夫
監督助手: 岡本喜八
出演:高峰秀子、森雅之
作品上映
あらくれ
作品上映
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あらくれ
気性の激しい女性が、様々な裏切りや苦難にもめげず、逞しく、凛として生きていく様子を成瀬との名コンビで知られる水木洋子の脚本で描く。 この名コンビ最後の作品となった。
1957年/121分/モノクロ
監督:成瀬巳喜男
原作: 徳田秋声 (『あらくれ』)
脚本: 水木洋子
撮影: 玉井正夫
出演:高峰秀子、上原謙、森雅之
*東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品
作品上映
乱れ雲
作品上映
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乱れ雲
夫を事故で亡くした女性とその加害者である青年の偶然の再会。憎悪と愛が交差する禁断の関係を武満徹の音楽がさらに情感をかきたてる。 成瀬の遺作であり、本特集唯一のカラー作品。
1967年/108分/カラー
監督:成瀬巳喜男
脚本: 山田信夫
撮影: 逢沢譲
音楽: 武満徹
出演:加山雄三、司葉子、草笛光子
上映/イベントスケジュール
上映期間:2006年6月2日(金)〜18日(日)
日付 | 時間 |
上映作品 イベント |
6月2日(金) | 13:00〜15:16 |
君と別れて+夜ごとの夢 |
6月2日(金) | 16:00〜16:54 |
噂の娘 |
6月2日(金) | 19:00〜20:14 |
女人哀愁 |
6月3日(土) | 13:00〜13:54 |
噂の娘 |
6月3日(土) | 16:00〜17:14 |
女人哀愁 |
6月4日(日) | 13:00〜15:16 |
君と別れて+夜ごとの夢 |
6月9日(金) | 13:00〜14:07 |
まごころ |
6月9日(金) | 16:00〜17:10 |
旅役者 |
6月9日(金) | 19:00〜20:34 |
山の音 |
6月10日(土) | 16:00〜17:34 |
山の音 |
6月10日(土) | 19:00〜20:07 |
まごころ |
6月11日(日) | 13:00〜14:10 |
旅役者 |
6月16日(金) | 13:00〜15:02 |
浮雲 |
6月16日(金) | 16:00〜18:01 |
あらくれ |
6月16日(金) | 18:20〜19:50 |
堀家敬嗣レクチャー「成瀬映画の現在」 関連イベント |
6月16日(金) | 20:00〜21:48 |
乱れ雲 |
6月17日(土) | 16:00〜18:01 |
あらくれ |
6月17日(土) | 19:00〜21:02 |
浮雲 |
6月18日(日) | 13:00〜14:48 |
乱れ雲 |
作品が見つかりませんでした。 |
チケット情報
基本情報
上映期間 |
2006年6月2日(金)〜18日(日) |
上映作品 | 9作品 |
関連イベント | 1イベント |
チケット情報 | 有料 |
クレジット |
主催・財団法人山口市文化振興財団 |