勝手にしやがれ

マルセイユのチンピラ自動車泥棒ミシェルは、尋問の警察官を射殺して、パリのアメリカ人留学生パトリシアの所に転がり込む。束縛されない自由な恋愛を楽しむ二人だが、パトリシアは警察にミシェルの居所を教える……。
これだけの単純なストーリなのに、「あなたのベストワン映画は？」と訊かれたら、これが生涯変わらない私のベストワン映画だ。それは出来事だったから。どんなに素晴らしい映画を沢山見てもこの評価は変わらないのだ。即興的演出、手持ちカメラでのルポルタージュのような手法、ジャンプ・カットの多用、唐突でとりとめのない詩的で哲学的な台詞。ベルモントのかっこよさ。それらがスピードと、時にはじれるほどの間合いとを作り出して、私の自意識と自我のがんじがらめをするりと解いてしまった。水道橋の駅の階段を3段飛びで駆けあがって帰ったときの自由な気持ちは忘れられない。現場を経験したことのない映画青年ゴダールが初めて撮った作品で、粗くもあるのに、それさえ魅力となってヌーヴェルヴァーグの金字塔となった。40年以上たってその斬新な手法は当たり前になった。それでもこの映画が少しも古びないのは、映画そのものが出来事だったからだ、と思う。
解説：上野恵子（コミュニティシネマ／プログラムコミッティ）