飢餓海峡

水上勉氏原作の長篇推理小説を映画化した、本作は、壮大なスケールで描かれた骨太の作品であり、内田吐夢監督の代表作の一本です。しかも、今回は映画ファンにとってはたまらないノーカット版での上映です。昭和22年、北海道で一家三人惨殺放火事件がおこる。直後におこった青函連絡船転覆の大事故を利用して犯人の一人、犬飼（三國連太郎）は逃走するが、転覆事故の犠牲者に不審を抱いた刑事（高倉健、判淳三郎）が捜査に乗り出す。犬飼と一夜を共にした芸者･八重（左幸子）は犬飼が忘れられず、慕い続ける。やがて10年、事件は思わぬ展開をみせる……。
貧しく、生きる為に人を殺した男と、たった一夜のために慕い続けた女の哀れ。そして10年にも及ぶ捜査を続けた二人の刑事の執念。人間の人生の変転を綿密な脚本とダイナミックな映像で壮大な作品に仕上げた本作は、まさに内田監督以下スタッフ俳優の執念が乗り移ったかのように圧倒的な迫力と面白さで観客を引き込んでいきます。三國連太郎の存在感と共に、男の残した親指の爪を頬からうなじにあて、愛撫の吐息をもらす左幸子の表情に思わず生唾をゴクリ……。日本映画の底力をみせつけた本作品。どうぞ、じっくりとご覧下さい。
解説：小澤由己子（コミュニティシネマ／プログラムコミッティ）