座頭市物語

「座頭市」と聞くと昨年の北野武の作品が頭に浮かぶ方も多いでしょう。確かにあの作品は面白かった。一級の娯楽作品と言えます。今回上映しますのは本家本元、御存じ勝新太郎の「座頭市物語」。当時の社会では弱者とされていた座頭（盲人）が実はやたらに強く、仕込み杖一本で裏街道を旅して行くという特異なキャラクターで人気を博してシリーズ化され、テレビ版も含め数多くの作品が作られましたがこれはその第一作です。居合い斬りの達人 、座頭の市（勝新太郎）は飯岡助五郎の客分となり飯岡と敵対する笹川築造の用心棒 平手御酒（天知茂）に友情の念を抱きつつ、ついには対決せざるをえなくなる……。北野武の「座頭市」はキレがあった。猛烈なスピードで斬りまくる。勝新の「座頭市」は品がある。人を斬ったあとに必ず見せる一瞬の沈黙、無言の悲しみ。後ろ姿さえ美しい。大詰めで見せる天知茂との悲しみを秘めた対決シーンは裏街道に生きる人間の宿命が凝縮されている。タケシはエンターテイメントとしての「座頭市」を目指し、勝新は "人間座頭市" を追求した。だからこそ多くの大衆の心をつかみ、あんなにも多くのシリーズ作品が生み出されたのでしょう。近年の殺陣シーンでは当たり前になった大袈裟な擬音は無く、人間の息づかいのみ聞こえる一見静かな立ち回りは返ってリアルさを増し、役者もごまかしのきかない真剣勝負を要求される。乞御期待！
解説：小澤由己子（コミュニティシネマ／プログラムコミッティ）