青いパパイヤの香り

「パパイヤは、青い時は野菜と見なされ、熟した時に初めて果物となる。……青いパパイヤの香りは、母親にまつわる私の子供の頃の記憶である。」（トラン・アン・ユン監督）本作は1950年代〜60年代のベトナムを舞台に、一人の女として成熟していく少女ムイと当時のベトナムをあるがままに描いていく。トラン・アン・ユン監督は1962年にベトナム南部のミトに生まれ、12歳の時にフランスに亡命、5年後にフランス国籍を取得した。哲学を専攻していた学生時代に偶然見た、パリ在住のベトナム人監督の映画がきっかけで映画監督をめざしたという。長編デビュー作の本作は'93年カンヌ国際映画祭カメラドール賞を受賞、2作目『シクロ』は'95年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した。3作目は『夏至』。3作品ともベトナムを舞台にしているが、『青いパパイヤの香り』は、雨期と重なり、監督の望みがかなわずフランスのセットで撮影された。しかしそれが監督の精神世界を増幅させたとも言える。また、トラン・アン・ユン監督は学生時代は監督になるための勉強としてひたすら映画館で映画を見続け、1日に最低2本の映画を見たという。敬愛する監督の一人は小津安二郎監督で、本作に登場する子供たちのユーモラスな描き方も、小津監督を意識したそうである。映画の中での朗読は夏目漱石の『草枕』の引用であることにもご注目を。
解説：大久保雅子（コミュニティシネマ・プログラムコミッティ）