海の上のピアニスト

『海の上のピアニスト』の見所は、やはり映像と音楽、そして設定にあるだろう。脚本、つまりことばに頼りすぎていないところが魅力的だ。こういった映画は何度見ても面白い。見るたびに良さが増してくるものだし、見るときによって見方も変わってくる。1900（ナインティハンドレッド）は生まれてずっと海の上でしか生活したことがない。そんな彼がある日ピアノに魅せられる。海の上だけ、鍵盤の上だけに彼は存在していた。そんな彼がある日恋をする。その時の彼の奏でるメロディの不協和音がたまらなくその切なさを物語り、また下船するか否か、新しい世界へと羽ばたけるのか否かという彼の困惑を示す。そして彼は彼女のもとへと下船しようとする。しかし、彼の目の前に現れたのは20世紀の大都市、ニューヨーク—。彼は帽子を投げた。だがその帽子がたどり着いたのは海の上だった—。1900という名前がまだ19世紀を意味することにも注意したい。20世紀への逸る好奇心とは裏腹の19世紀への郷愁とも見て取れる所が皮肉である。
解説：西村美佳穂（コミュニティシネマ／プログラムコミッティ）