リアリズムの宿

二人の男が寂れた田舎の小さな駅に突っ立っている。二人は顔見知りではあるが、親しくはない。どうみても、人付き合いが上手いとは思えない輩だ。共通の友人が来るのを居心地悪げにじっと待っているが、来ない。二人は仕方なく、ちぐはぐな道中を始める。二人の前を奇妙な人が現れては去り、二人はそれを見ている。二人が絶妙にずれているのが、可笑しい。くすくす、くすくす笑ってしまう。リアリズムの宿がなかなかのリアルさ。そうやってサエない旅をサエない二人は共にして、すこし前向きに心を通わせる。それだけの話なのに、観終わって、こっちも不思議に元気が出る。並の才能では作れない映画だと思った。 その監督は、大阪芸大の卒業制作で「どんてん生活」を作った山下敦弘。ちょーサエない男たちのどんてんな暮らしが、可笑しくて可笑しくて、たちまち私も山下ファンになってしまった。「リアリズムの宿」は、つげ義春の漫画を原作にしているが、設定を現代に移して、つげの作品世界に監督の作り出したキャラクターを放りこむ、という方法を取っている。それがとても成功している。「どんてん」で一度見たら一生忘れられないダメ男を演じた山本浩司と、脚本家、俳優として活躍する長塚圭史が二人を演じている。くるりの音楽もいい。冴えない日本も捨てたものではないなあ、と思った。
解説：上野惠子（コミュニティシネマ・プログラムコミッティ）