アイデン＆ティティ

苦しくて、きつくて顔をぐちゃぐちゃにするほど泣き腫らして、挙げ句のはてには周りの人まで傷付けて。そんな八方塞がりな状況に現実逃避。その場限りの救いはまやかしに過ぎず、また同じことを繰り返させるのみ。手が届きそうで届かない理想を必死に追い求めた故のこの代償。この姿、最高にださくて酷くかっこ悪い。しかし、どれだけださかろうが、誰かに酷いことしてしまおうが、なにか一つ信じられるものを持ち続けて真摯に生きていく姿は、最高にかっこいいと思う。これはこの映画の主人公中島。バンドブームに乗ってメジャーデビューできたはいいけどブームはすでに過ぎ去り、売れる曲を書くべきか、自分のやりたい音楽を追求すべきか、理想と現実の狭間で悩み続ける。しかし、そんな時に必ず彼にだけ見える男が現れるのだ。それは、帽子を深々と被り、サングラスをかけた男。彼は、何を忠告する訳でもない。何を嘲笑する訳でもない。ただ、ギターを弾きながら、ハーモニカを吹きながら、ボブ・ディランの歌を弾き語るのみ。そして中島はある答えを出します……。すっごく青臭くて熱くてださくてかっこいい映画です。今年の1月、身が切れてしまいそうな寒い夜にこの映画観ました。丸くなるはずの背中はなぜかしゃきっと伸びぽかぽか暖かかったです。自転車こいでぜひ観に来てください。いい映画です。
解説：奥田愛（コミュニティシネマ／プログラムコミッティ）