美しい夏キリシマ

黒木和雄と聞けばかつての70年代 ATG作品『竜馬暗殺』『祭りの準備』等、斬新で実験的な映画造りで当時カリスマ的な監督だった事を思い出す人も多いでしょう。それほど彼の作品の一つ一つは印象が深く一度観たら絶対に忘れられないものがほとんどです。その黒木監督の最新作『美しい夏キリシマ』は日本映画史でおそらく長く語り継がれるであろう名作です。 これは戦争映画です。しかし実に静かな戦争映画です。戦闘シーンもなければ死人もでてきません。黒木監督自身が当時15才だった時の体験を基にこの映画はつくられました。 誰もが忘れられない1945年の8月、終戦であり敗戦のあの時の庶民の日常を霧島を舞台に静かにそして赤裸々に描いてゆきます。15才の少年靖夫は、爆撃で自分のすぐ横で撃たれた友人を見捨てて逃げた事への懺悔の念から立ち直れず日々彷徨うように暮していた。 しかし戦禍という異常な中でも人々の日常は日々営まれていく。生きて愛してそしてある瞬間美しく煌めいて。そしてむかえる8月15日。その時靖夫は……。題名の『美しい』とは何だったのか、観終わった後胸に焼き付いた情景はそれぞれ違うかもしれませんね。しかし一つ言える事はこの映画はスクリーンで観てこそ永遠の記憶に残るほど美しいという事でしょう。
解説：小澤由己子（コミュニティシネマ／プログラムコミッティ）