ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

その人たち──映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』に出演した老ミュージシャンたち──の輝く一瞬を、永遠に私たちに残してくれたヴィム・ヴェンダース監督に、どれだけ多くの人々が感謝の気持ちを抱いているだろう！一瞬と書いたのは、そのバンドの最長老でメンバーの顔とも言える、歌手でギタリストのコンパイ・セグンド氏が今年7月13日に95歳で亡くなったから。その訃報を聞き、改めて「彼らのように歳をとりたい！」と思わせてくれるような映画だ。ヴェンダース監督の友人である米国のギタリスト、ライ・クーダーが、キューバで過去の人として忘れ去られようとしていた老音楽家たちを探し出し、ともに一枚のアルバム「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」を創り上げた。本作は、97年のグラミー賞を受賞したそのアルバムが世界中でヒットしたことにより実現した、名高い二つのコンサートを中心としたドキュメンタリーだ。永い人生に磨かれたようなそれぞれ個性的な古老たちが歌い、奏で、語る。そして、世界遺産のハバナ旧市街の美しい街並み……。この映画そのものが素晴らしい芸術作品であると同時に、登場する老音楽家たちが最高の表現者、アーティストである。私たちはスクリーンの前で、至福の時間を過ごせるだろう……。日本でもキューバ音楽ブームを巻き起こした、本作の日本公開は2000年だった。ときには、現在の世界では失われたり変化したものが映像としてよみがえり、監督の意図とは別の、公開時とはまた違うものを私たちに感じさせてくれる、それが映画の奥深さの一つでは？
解説：大久保雅子（コミュニティシネマ／プログラムコミッティ）