プロスポーツの世界では、試合状況のリアルタイム分析、人の目では判断できないような細かな判定、AR 技術を導入した試合中継、トレーニングの効率化など、メディア・テクノロジーのスポーツへの導入が進み、選手の身体能力や技術向上はもとより、私たちのスポーツへの参画のあり方も変容させています。YCAMではこうした状況を背景に「スポーツをつくる/改変すること」に着目して、スポーツとメディアテクノロジーの融合を実践するコミュニティの創出を軸とした「YCAMスポーツ・リサーチプロジェクト」が発足。これまでに「YCAMスポーツハッカソン」「未来の山口の運動会」などのイベントを実施しており、このワークショップはこれを子ども向けにアレンジしたものです。。
このワークショップでは、メディアテクノロジーが埋め込まれたオリジナルのスポーツ開発ツールや、従来の運動会で馴染みの深い道具を用いて、新たな運動会競技を開発します。完成した競技は参加者全員で楽しみます。対話と実践を通じて、さまざまな立場の人とコミュニケーションを図り、ひとつのものを作っていくための姿勢を学びます。
ワークショップ概要
所要時間:120分
参加人数:30名
対象年齢:小学校4年生〜小学校6年生
ワークショップの流れ
- このワークショップの説明
- 準備運動
- 運動会競技の開発(ハッカソン)
- 開発した競技のルール説明、実演
- ミニ運動会の実施
- ふりかえり
トピック
「YCAMスポーツハッカソン」と「未来の山口の運動会」
「YCAM スポーツハッカソン」は3日間の合宿形式のイベントです。2日間で運動会競技を開発し、最後の1日で完成した競技で「未来の山口の運動会」を実施します。2015年度に、eスポーツプロデューサーの犬飼博士や運動会プロデューサーの米司隆明らとともに第1回目の「スポーツハッカソン」と「未来の山口の運動会」が開催されました。
「ハッカソン」とは、IT業界等で使われる用語で「Hack(改変する)」+「Marathon(マラソン)」を掛け合わせた造語であり、数時間〜数日の短期間で、アプリやサービスの試作(プロトタイピング)を繰り返し、開発をします。「スポーツハッカソン」では、YCAMのもつ技術や、参加者が持ち寄った道具やアプリケーション等を活用しながら、エンジニア、デザイナー、主婦、学校教員など多様な参加者が、短時間で議論と実践を繰り返しながら、スポーツ/運動会競技を開発します。
「スポーツハッカソン for Kids」は、YCAMで開発された技術やリソースを、教育プログラムとして地域に還元するために制作されました。これからの子どもたちが生きていく社会では、様々な立場の人とのコラボレーションが欠かせません。スポーツをつくることを通して、多様なバックグラウンドの人たちと、新しいテクノロジーに対する向き合いかたを共に探求する力を身につけることをねらいとし、議論と実践の繰り返しを充実させたプログラムに再構成しました。
スポーツ開発ツール
本ワークショップを実施する多くの場合、まずは参加者と道具の関係性を築くことからはじまります。綱引き、玉入れ、フラフープなどの従来の運動会で使用される道具[アナログツール]と、YCAM InterLabが製作したスポーツ開発のための道具[デジタルツール]にふれたり、遊んだりすることを通じて、道具の特徴を理解します。
前提知識のないデジタルツールはもとより、アナログツールについても、「このように使うものだ」という固定概念を取り払うことで、道具と自分たちの身体の関係性を新たに規定していきます。
また、ワークショップで使用される「デジタルツール」は、これまでにYCAM InterLabが展覧会やワークショップのために研究開発した技術が応用されています。
スポーツ開発
道具にふれたあとは、参加者その特徴や、関わりから発想したことなどを口々に発表します。これらのアイデアを「ルール」のかたちにまとめあげていきます。運動会種目あるいはスポーツのルールは、主とする動き、使用するフィールド、対戦方式、勝敗のつけかた等の様々な要素が複雑に絡み合い構成されています。おもしろさを感じた動きやしくみを種目として成立させるためには、議論を重ねるだけではなく身体を動かして検証する必要があります。グループ内でアイデアを実践し不具合があれば再び議論をし修正を図ります。短時間のうちにこれらを幾度も繰り返し、運動会で実施するためにルールに抜け・漏れがないように精度を高めていきます。まるでコンピュータ・プログラミングのバグをひとつひとつ修正していくかのように、スピード感に溢れたプロトタイピングをおこなっています。
スポーツはつくれる
「サッカーでは手を使ってはいけない」「徒競走では早く走れた人が勝ち」など、私たちはさまざまなスポーツのルールを自明のものとして受け入れています。新しい種目の開発という体験は、新しい技術や価値観に主体的にかかわり、コミュニティにおいて対話・実践・試行錯誤を繰り返すことで、ルールを共創していくプロセスの小さな実験もいえるでしょう。
おにごっこ、かくれんぼなどの普段の子どもたちの遊びは、固有のローカルルールが適用されていたり、多様性を前提とした、インクルーシブなルールに変容していることも多く見受けられます。子どもたちは、決められたルールの中で力を発揮するだけではなく、構造の変化を起こすことで生まれるおもしろさを知っているのです。