インターネットが一般に普及してから約20年と言われる現在、ネットワーク技術は高度化し、社会のあらゆる局面で情報化が進み、私たちの生活はより便利なものになりました。とりわけ、スマートフォンやSNSの普及によって、個人における情報発信の頻度が高まっています。すばやく多様な情報を得ることができるという利便性の一方で、フェイクニュースなどにみられる確実性の担保や、プライバシーの取り扱われ方について違和感や不安を覚えることもまた事実です。
このワークショップでは、参加者同士のインターネットに対するイメージをクイズ形式で共有する「インターネットイメージかるた」と、写真投稿型のSNSにおける「発信者」「受信者」双方の立場を擬似的に体験する「SNSかくれんぼ」の2つの活動をおこないます。これからのインターネットにおける情報発信のあり方や、他者との関わり方について、参加者同士の議論を通じて思考を深めていきます。
ワークショップ概要
所要時間 180分
参加人数 8名
対象年齢 小学4年生以上
ワークショップの流れ
- 自己紹介
- インターネットイメージかるた
- SNSかくれんぼ
- 感想共有、まとめ
トピック
インターネットイメージかるた
参加者が、かるたの「読み手役」、絵札をあてる「回答者」にわかれて、それぞれの役割を交代しながらおこないます。
まず、各参加者がインターネットに抱く印象を短い時間で考えます。このときに挙げた印象がかるたの「読み札」となります。次に、ワークショップの進行役が提示する多数の画像の中から、先ほど想起したイメージに近い画像をひとつ選びます。これがかるたの「絵札」となり、この時点では「読み札」と「絵札」の紐付きかたを誰も知りません。全員が絵札を選び終わったら、かるたゲームがはじまります。ワークショップの進行役は参加者のひとりを、かるたの読み手役に指名します。読み手役に指名された人は「読み札」つまり、自分の想像したインターネットのイメージを発表します。他の参加者は、多数の画像の中から「読み札」に結びつく「絵札」を推理し、その理由を発表します。回答者全員が発表を終えると、読み手役は正解の絵札を発表します。ここまでの流れが1ターンとなり、すべての参加者が読み手役を体験するまで交代しながらゲームを進めます。
このゲームを通じて、各参加者のインターネットに対する考え方が浮き彫りになるとともに「読み札」「絵札」の紐づきかたの意外性から、人間のもつ想像力の豊かさも実感することができます。
SNSかくれんぼ
参加者が、架空の写真共有型SNSにおける情報の「発信者役」「受信者役」に分かれてゲームをおこないます。
発信者役は、SNSに投稿する写真を2枚選び、匿名で他の参加者に提示します。写真は必ず発信者役本人が撮影したものとします。受信者側は、示された2枚の写真から想像される情報発信者の人物像をできるだけ多く、制限時間内に自由にチャットに書き込みます。制限時間が終了すると、ワークショップの進行役が、発信者役が誰であったかを明かします。発信者自身は自らの人物像について書き込まれたコメントを振り返り、感想を述べていきます。すべての参加者が、発信者役を体験するまで役割を交代しながらゲームを進めます。
ふたつの立場に分かれて、画像を通じたコミニュケーションを図るという点では、先におこなった「インターネットイメージかるた」と構造がよく似ています。しかし「SNSかくれんぼ」においては、インターネット、SNSにおけるコミニュケーションでは「送り手」「受け手」はシームレスなものであり、無自覚かつ流動的にどちらの立場にもなり得るという特質が浮き彫りになっています。
はじめに写真を投稿し、コミニュケーションのきっかけをつくるのは発信者役です。しかし、受信者役は写真に関して発言した時点で、発信者に成り代わります。また受信者役同士が議論を重ねていくことで、いつしか「発信元」ともいえる2枚の写真から読み取れる以上の人物像にまで推測が及ぶこともあります。発信者役は、情報が自分の想像を超えて受け取られることから、予期せぬところから個人情報が知られてしまう危険性、誤解が生じたとしても弁解の余地なく情報が一人歩きしてしまうことへの驚きや不安を感じます。こうして参加者は何気ない発言がきっかけとなって、また自覚がないまま「発信者」になる可能性を擬似的に体験することになります。
自覚なき「発信者」
SNSかくれんぼでは、インターネットにおけるコミニュケーションにおいて「送り手」「受け手」どちらの立場にもなり得るという特質があることを体験します。ところが、実際のインターネットにおいて、私たちが自覚なき「発信者」となっている場合は想像以上に多いのです。
何気なくおこなっている検索エンジンでの検索履歴、SNSでの「いいね」、行動履歴や位置情報、電子マネー等の決済情報、個人情報を各種サービスに登録する行為も、私たちを無意識に「発信者」たらしめています。企業等はそれらの情報を収集し、個人のニーズに合った広報活動を展開することで、私たちの生活における行動の変容をもたらします。
インターネットが普及した現在、私たちの行動や発言は、人間同士でのコミニュケーションという側面を超えた価値をもつものであると自覚し、便利さを享受する一方で、情報の取り扱われ方や発信の仕方について、より一層議論を交わしていく必要があるでしょう。