人間が何かを造形/設計するとき、対象を俯瞰するなどして全体像を客観的に把握しながら、実作業を進めていきます。一般的には対象のスケールが大きくなるに連れてそれが困難になっていくため、たとえば建築物の設計においては、俯瞰以外にも図面や3Dモデルといった対象物を抽象化したものを通じて全体像の把握をおこなうことになります。しかし、都市や道路交通網など巨大なスケールを持つものを設計するとき、こうした手法とは逆のボトムアップ的な手法が有効な場合があります。
このワークショップでは、単純なルールから複雑な形態を生み出す計算モデル「セル・オートマトン」などをモチーフに、参加者は個々に与えられたシンプルなルールに従って、代わる代わる〈パスタ建築〉を建造します。完成した多種多様な〈パスタ建築〉の分析を通じて、個人のセンスによらない、多数の主観的判断の集積からなるボトムアップ型の設計手法について学習します。
ワークショップ概要
所要時間:2時間
参加人数:4〜18名
対象年齢:小学校4年生〜一般
使用する道具
- パスタ
- グルーガン
- オーダーカード
ワークショップの流れ
- ワークショップの説明
- 道具の使い方の説明
- パスタ建築の制作
- 完成したパスタ建築の観察
- 自然界に存在するユニークな構築物の紹介―創発、セル・オートマトン
- 振り返り
トピック
パスタ建築の制作
ワークショップはは6名1組で進行し、1人ごとにパスタ建築を構築する座席が与えられる(ただし参加人数に応じて5名ないし4名の場合もある)。各参加者には、「オーダーカード」と呼ばれる指示書を1枚を配布され、参加者はそこに記された指示に従ってパスタを組み合わせていく。「オーダーカード」に記されている指示は、「高くする」「強くする」「大きくする」「コピーする」「美しくする」「密度を高くする」の計6種類で、その指示内容に応じてパスタには印が付けられている。
作業中、5分ごとにファシリーテーターから合図があるので、その都度参加者はオーダーカードを持って、隣の参加者の席へと移動する。そして移動先の座席でも、目の前のパスタ建築に対して、再びオーダーカードに沿って手を加えていく。こうしたステップを12回、計1時間繰り返すことで、参加人数分のパスタ建築を制作する。
成果物の発表会と評価
パスタ建築が完成したら、参加者全員でそれを観察していく。
パスタには、オーダーカードの指示ごとに異なる色が付けられているため、そのパスタがどのような指示に基づいて接着されたのかがわかるようになっている。6種類のシンプルな指示しかないにも関わらず、座席ごとに多種多様な形状を実現しているパスタ建築。その背景にはどういったメカニズムがあるのか、参加者全員で議論する。
自然界に存在するユニークな構築物の紹介
ワークショップで制作したパスタ建築と似たような仕組みでつくられているものの例として、珊瑚やアリ塚などを紹介する。たとえばアリ塚は、そこにいる膨大な数のアリの1匹1匹が、単純な処理をおこなうコンピュータープログラムのように振る舞い、なんらかのルールにのっとって、材料となる土を積み重ねた結果出来上がったものである。
そこには建築家や設計図のような特権的で客観的な視点などは存在せず、膨大な量の主観的視点がフラットに存在し、それをもとに巨大なスケールの構造体を構築する。
こうした現象を、複雑系科学などの領域では「創発」と呼んでおり、「創発」を引き起こすフレームの中でも、よりシンプルな構造でそれを実現するものとして「セル・オートマトン」がある。
このワークショップでは、こうした複雑系科学の知見も交えながら、近年、都市の導線設計や情報アーキテクチャの設計などに導入されつつある、個人の個性やセンスによらないボトムアップ的な設計のあり方、およびそれに必要な考え方について、分かりやすく理解することができる。