新しいメディアテクノロジーが登場するすると、それに対応するようにコミュニケーション様式は変化し、その変化はコミュニティはもちろん、社会全体にも波及していきます。その中で受動的にならずに、常に能動的/自律的にテクノロジーと付き合っていくためには、メディアテクノロジーの利用方法を考え、それを更新し続けていくことが重要になります。
このワークショップでは、参加者自身が携帯電話のカメラ機能を利用した「鬼ごっこ」をおこない、さらにそのルールづくりと交互に繰り返すことで、ルールが持つ影響力を身をもって体験していきます。この一連の過程を通じて、メディアテクノロジーが持つ創造的な側面と暴力的な側面という両極ををシミュレーションするとともに、そこから浮かび上がる社会/コミュニティとメディアテクノロジーとの関係性についての本質的な理解を促します。
ワークショップ概要
所要時間:3時間
参加人数:8〜15名
対象年齢:小学校4年生〜一般
ワークショップの流れ
- ワークショップの説明
- 携帯電話の使い方の説明
- 携帯電話を使用した鬼ごっこの説明―テストゲーム
- ルールづくり(1回目)
- 鬼ごっこ(1回目)
- ルールとマナーについてのレクチャー
- ルールづくり(2回目)
- 鬼ごっこ(2回目)
- 振り返り
トピック
携帯電話を使用した鬼ごっこ
鬼ごっこの開始にあたって、参加者にはひとり1台ずつカメラ機能が搭載された携帯電話を渡される。参加者はこのカメラで他の参加者から撮影されないように逃げたり、隠れたりしながら、他の参加者を撮影し、その都度専用サーバーへ写真を送信する。鬼ごっこが終了した後には、参加者が撮影した写真を会場内の大型モニターに表示し、全員でそれを見ながら、自分たちで考えた採点基準を基にポイントを与え、順位を決定していく。
ルールづくり
鬼ごっこの順位を決定した後は、参加者全員を集め、鬼ごっこのルールを策定し直すミーティングをおこなう。ミーティングでは、ミーティングでは、怪我などのリスクを低減するためのルール策定や、採点基準の見直しなど、より安全で公平なルール作りのためにディスカッションを繰り返し、決定した内容を実際のゲームへと反映させる。
人々の行動を制限するためのアプローチ
参加者は、鬼ごっことルールづくりを繰り返していくなかで、人々の行動に制約するためのいくつかアプローチに触れることになる。そのアプローチを分類すると、アメリカの法学者のローレンス・レッシグが著書『CODE』で挙げた「法」「規範」「市場」「アーキテクチャ」の4種類に大別される。
このワークショップにおける「法」とは、鬼ごっこの中でやってはいけないことを明文化し、それに違反した際のペナルティを設定することであり、「規範」とは楽しく鬼ごっこをできるよう、他の参加者が嫌がるような行為を参加者ひとりひとりが自制することである。これらは、ひとりひとりの参加者に対する「教育」によって、ある種の強制を伴いながら達成される。
つぎに、「市場」にあたるのが、採点基準の変更である。たとえば、被写体を大きく撮影できたら高得点を獲得できる、といったように採点基準を設定すると、多くの参加者が、誰かに命令されたわけではないのに、自分が撮影されるリスクを冒して、他の参加者へと近づいていくようになる。そこには強制が伴うものの、競争意識が強く働くため、参加者がそれについてあまり意識することはない。
そして、「アーキテクチャ」にあたるのが、携帯電話のカメラ機能の特性である。たとえば、携帯電話で写真を撮ると大きなシャッター音が発生するため、被写体を隠れて撮影してもすぐ相手に気づかれてしまう。ほかにも、撮影するまでに起動時間がかかったり、連続撮影ができなかったりと、携帯電話のカメラにはさまざまな障壁があるが、ほとんどの利用者はこうしたものを所与のものとして受け入れる。これは会場の壁や階段の位置といった環境の構造も同様である。
高度情報化社会におけるコミュニティ
私たちの社会やコミュニティは概ね上記のアプローチを組み合わせることで秩序と自由を両立させようとしている。しかし、デジタルコンテンツの違法コピー問題などで浮き彫りにされたように、情報化が進む今日においてはそのアプローチ自体が変化にさらされており、秩序を維持しようと法を強化したために、自由が損なわれるといった事態も発生している。参加者は一連のプロセスを通じて、上記のアプローチの存在、そのメリットやデメリットを身をもって体験し、高度情報化社会におけるコミュニティの運営に向けた方法論を学んでいく。