バイオテクノロジーは、近年の技術の発展により、私たちにも身近なものになってきています。その背景として、DNAの塩基配列を「読む技術」や、DNAを編集する、設計するという「書く技術」に係るコストが急激に低下していることがあげられます。実験に必要な機材も安価で手軽なものが開発されると同時に、積極的に作りかたが公開されている(オープンソース)ほか、身近なもので代用できるアイデアが紹介されるという事例もあります。大学や研究所に所属している研究者だけではなく、個人が身近に関わることができるようになっています。
このワークショップでは、山口市周辺の野山や公園に出かけて植物採集をおこないます。私たちは植物の種類を調べるときに、葉のかたち、花や実の色などの目に見える情報を頼りにしていますが、このワークショップでは、採集した植物のDNAを解析します。ラボに帰着後は、採集した植物について観察と、オリジナルのキットを用いてDNA抽出を実施。参加者が抽出したDNAの情報を元に、推測をおこない、図鑑を作成します。バイオテクノロジーが身近になることにともなう倫理的課題や技術的応用の可能性について、主体的に学ぶ姿勢を身につけることができます。
ワークショップ概要
時間:180分+150分
参加人数:10名
対象年齢:小学6年生〜一般
ワークショップの流れ
DAY1
- 植物採取
- 撮影
- サンプルの粉砕
- ピペット操作トレーニング
- DNA抽出
- DNA増幅(PCR)準備
- DNAシーケンスの説明
- まとめ、次週の説明
DAY2
- DNA解析の結果説明
- BLAST検索
- 種を決定
- 発表
- 図鑑作成
- まとめ
トピック
フィールドワーク
DNA解析の対象となるのは身近な野山や公園の植物です。フィールドを探索し、解析したい植物の植生している場所、形状、におい等の特徴を主観的に記述します。同時に植物の種類や名前も推測を試みます。フィールドワークで見聞きし感じた情報は、DNA解析後の種の同定(植物の特定)と考察に大きなヒントを与えます。
DNA解析
DNA(デオキシリボ核酸)とは遺伝情報を担う物質で、細胞内の核の中の染色体に存在しています。DNAはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という塩基の配列から成り立っています。DNAを「読む」(DNAシーケンス)ために、採集した植物からDNAを抽出し増幅させます。(PCR法)。読み取ったDNAを用いて、植物を同定するために「DNAバーコーディング」を用います。生物固有の遺伝子が異なることを利用して、特定領域のDNAを分析し、既知DNAの情報と照らし合わせることで生物の種を同定しようとする試みです。バイオテクノロジーの専門家以外でも、簡単にDNA解析を用いた同定が可能になると考えられています。
種の同定
DNAシーケンスで得られた塩基配列と似た塩基配列をデータベース上から検索する、BLAST検索(相同性検索)をおこないます。類推された植物名からインターネット検索、図鑑での調査などを試みて、BLAST検索の結果の妥当性を確かめます。一度で特定できない場合は、一部の塩基配列のみを取り出して検索し、似た特徴をもつ植物を探します。植物の形状だけではなく、フィールドワーク時に観察した植生地や時期、撮影した写真など複数のリソースから総合的に判断し、種を同定します。
ウェブサイト「森のDNA図鑑」
調査したは、ウェブサイト上の植物図鑑「森のDNA図鑑」に収録されます。360度カメラで撮影された実際の植生地の画像と併せて表示されます。参加者が撮影した採取サンプルの写真のほか、主観的な予測や考察、DNA配列が掲載されている複眼的で奥行きのある図鑑です。図鑑の作り方(ソースコード)もオープンソースで公開されており、全世界でオリジナルのDNA図鑑を作成することができます。