私たちが普段口にしている料理は、調味料の配合、熱の加え方などの化学反応によって大いに味が変化しています。さらに、味覚は舌だけでなく、におい、料理の見た目などの身体のさまざまな機能が複雑に絡み合って感じられるものです。おいしさをつくる/感じるという行為は、個人の経験と工夫の積み重ねの暗黙知として伝承されてきました。一方で、これらを理論立てて体系化することを試みる調理科学の発達や、テクノロジーを用いておいしさを客観的に定義づけようとする動きもみられます。
まず、参加者は「ワンプッシュスープ」というワークで、調味料を調合してサンプルスープの味を再現します。次に、私たちの身体が味覚を感じるしくみや、近年の調理の潮流について講義形式で学びます。最後に、加熱の温度や時間を変化させながら身近な素材を調理します。仮説、実践、検証、考察といった科学的な態度を以って、調理する・食べるという活動を捉え直すことで、参加者は新たな調理の地平を開拓し、おいしさの観念をアップデートしていきます。
ワークショップ概要
所要時間:120分
参加人数:10名
対象年齢:小学校1年生〜一般
ワークショップの流れ
- このワークショップの説明
- ワンプッシュスープ
- 味覚とはなにか(レクチャー)
- 食材選び
- 調理
- データベースをつくる
- 自分のレシピをつくる
トピック
ワンプッシュスープ
講師が用意したサンプルスープを飲んで再現します。経験や感覚に頼りながら、だし汁、ラー油、豆乳、しょうゆ、ナンプラー、酢などの調味料を組み合わせます。私たちは「甘味、酸味、塩味、苦味、うま味」といった舌で感じる味覚だけではなく、見た目や香り、体調によっても、料理の味わいが左右されていることに気づきます。スープの調理と味見を通して、味わうことに対する意識を研ぎ澄ませていくほか、自身の身体を観察する態度や、調理に科学的手法(仮説、検証、考察)を取り入れる心構えを形成します。
調理
1cm四方のキューブ状に切りそろえられた野菜・果物などの食材から、好きなものを3つ選びます。まず、食材を生で味わい、食感や味についてレポートを記入します。次に、選んだ食材に対して「焼く」「蒸す」「揚げる」いずれかの調理方法とそれぞれの調理時間を選択し、調理後の風味や見た目について仮説を立てます。調理後の試食では、仮説が妥当であったか否かを検証し、食感や味にについてレポートを記します。これを参加者全員で、異なる食材で行うことによって食材のデータベースが完成します。さらに、データベースを元に、おいしいと感じる食材の食べ合わせを発見し自分のレシピとして作成し、発表します。
おいしさをつくる/感じる方法の多様化
調理をサイエンスの観点から捉えようとする例として、1980年代のフランスに端を発した「分子ガストロノミー」が挙げられます。分子ガストロノミーは、食材の構成要素(分子)に焦点を当てて調理をすることで、食材の舌触りや味わい、見た目を変化させます。それらの変化がおいしさを含む食事体験に与える影響を追求しています。また、メディア・テクノロジーの発達により、おいしい「食べ合わせ」を可視化した膨大なデータベースをインターネット上で共有する活動や、食材のおいしさを数値化し評価することのできる味覚センサーの開発も進んでいます。このように食にまつわる体験が、客観的に記述され共有されることを通じて、これまで調理に参加しなかった層が調理に関心を持つことで、さらなる調理法の発展も想定されています。