池田が2012年に発表したパフォーマンス作品「superposition」ををインスタレーション向けに大幅に改訂/拡張した作品。 "experiment" と "experience" の2つのパートから構成されており、両者の関係性は、量子力学や素粒子物理学における実験と観測、さらには表象と数学的モデルの関係性に対応している。
supersymmetry [experiment]
作品名の「experiment(実験)」が示すように、ここでは観測されデータ化される前の物理現象そのものを体験することができる。スタジオ内には強烈な白色光を発する3台のライトボックスが配置され、その上に敷き詰められた、極小の球体オブジェがライトボックスのわずかな傾きの変化により、様々な振る舞いを見せる。明滅を繰り返すライトボックスによりあぶり出されるそれぞれの球体は、時に球の集合としてまた、個別の球として相互に影響しあいながら複雑な振る舞いを示す。ライトボックスの表面を走査する赤色レーザーは、球の挙動を感知し、そのデータは音響とライトボックスをスキャンする液晶ディスプレイの映像へと反映される。3台のライトボックスは、内径(1m×1m)は同寸でありながら、素材や表面加工が異なる球がそれぞれに用いられ、個別な振る舞いをみせる様が見て取れる。
supersymmetry [experience]
暗闇の中に浮かび上がる、向かい合わせに設置された左右2列、平行に配された幅20m×高0.7mの映像画面。さらにそれに平行する20台×2列のモニター群。外側のスクリーンにはイメージが行き交い、内側のディスプレイではそれぞれの動きを解析するような描写が見られる。入力されたデータを解析、解体していくそれぞれの映像のシーンは精密に構成され、映像とはまた別に並行して通過して行く音響とすべての画面が完全に同期、コントロールされている。映像として現れる、複数の移動や明滅、解析のスピードは複雑かつ高速で、この左右に構成されたインスタレーションの中で起こっている全てのことを同時に1点から把握、認識しようとする私たちの意識を解体していく。1つ1つの映像、解析されるデータ、音の意味を追うだけではなく、映像と音響が構成する多様的平行宇宙(パラレルユニヴァース)への想像力を空間全体の認識と解像度へと拡げたとき、池田の構成(作曲)した音楽的構造に侵入することができる。ここに顕れる「音楽」は「数学的経験」という言葉があるように、数的モデルと音楽的表象との交錯点を結ぼうとする。