クリエーションにおいて、松田と笹岡は広島を訪れ、テキストと写真を通したコンセプトの交換作業を繰り返しながら、幾度となく描かれ、写されてきた都市に隠された「声」をすくい上げた。そうして完成した構想と脚本は、舞台芸術にある現在(ライブ)性と、写真という記録/複製メディアの機能を際立たせ、現在と過去が複雑に絡み合った多層的な時間軸を築き上げている。
また、この作品では非日常に観客を近づけようとする一般的な舞台作品とは異なり、舞台との隔たりや距離を意識的に観客に体感させるために、客席として使用するのは3階席のみとし、眼下に広がる舞台空間を俯瞰するという独特の鑑賞スタイルを導入している。さらに、それぞれの客席には小型のモニターを設置し、舞台に向けられたカメラからのライブ映像、そして予め撮影された映像を配信するといった試みもおこなっている。
このように舞台と客席の物理的な距離、メディア技術がもたらす間接的な距離、さらに舞台芸術と写真がもつ現在と過去との距離までもを操作することで、演劇を見るという体験を問い直している。