ステージには、夜明けから夜までの1日を表現するような照明のほか、青空や星空、木々の映像が映し出されるスクリーンなどの仕掛けが施されており、それらを通じて観客は、まるで劇場に窓が開き、劇場からストリートへと連れ出されるような感覚をもたらす。舞台上では、暗闇からダンサーたちが現れ、多様で素早い動きが正確に組み合わされていきます。相手の身体にぶつかるかぶつからないかというギリギリの距離で動くダンサーの動作からは、私たちの日常生活で起こる出会いやすれ違い、対立、攻撃、連帯、不安といったスリリングな物語を感じさせる。
これまで、グルーポ・ヂ・フーアの作品に明確な社会的なテーマを持たせなかった振付家・演出家ブルーノ・ベルトラオですが、制作場所の都市の名をそのまま冠した本作では、「私たちの街」でいま何が起こっているのか、という根源的なテーマに取り組んでおり、随所に社会が抱える問題や危機が描かれているのが見て取れる。また、本作は、過去作「H3」同様、ステージが照明によって明確に区切られており、ダンサーたちがその内と外を行き来する様は、国境を超える移民や移動、逃亡といった、ブラジルだけではなく多くの国が抱える問題を喚起させる。