巨大な壁面を覆い尽くす昆虫の触毛を思わせる大量のストラクチャー(「蠢く壁面」)と、会場中央の天井から吊られた6基のサーチアーム(「多視点を持った触覚的サーチアーム」)は、昆虫がうごめくように、観客を追尾し、監視している。また、会場の奥には、昆虫の複眼のような巨大な円形スクリーン(「巡視する複眼スクリーン」)が設置されており、ここにはストラクチャーに取り付けられたビデオカメラの映像や、世界各地の公共空間にある監視カメラの映像などによって構築されるデータベース「欲望のコード」から映像が、複雑に交錯しながら投影されている。さらに、会場のいくつかのポイントには超指向性マイクが設置されており、インスタレーション空間内で発生する話し声や物音、作品の機械音を収集。3つの構成の状態をもとに、現時点までに蓄積された過去の音声を呼び戻し、それを素材として、常に新たな音響空間を生成している。
このようにして時間や空間を断片的に組み変えながら、新たな現実を描き出すスクリーンの映像やインスタレーション全体の音響空間は、観客自身を監視と表現の対象として、そこにある私たちの今日的な身体性と欲望の所在を問いかけている。
蠢く壁面
壁面を埋め尽くす横15個×縦6列、計90個のストラクチャー。観客が壁面に近づくと、ストラクチャーは先端を明滅させながら、昆虫の触毛のように観客の方向に一斉に動き出す。このとき、個々のストラクチャーから発生する「カシャ」という駆動音によって、生物がざわめくような空間が作り出される。
また、一部のストラクチャーには、人間の知覚を越える高精度の超小型ビデオカメラが取り付けられており、撮影した観客の映像は、ストラクチャーの動作のデータとともに、本作全体の振る舞いを統御するデータベース「欲望のコード」へと取り込まれ、対面に位置する「巡視する複眼スクリーン」に反映される。
多視点を持った触覚的サーチアーム
天井から吊り下がる昆虫の触角のような6基のサーチアーム。その先端にはビデオカメラとプロジェクターが取り付けられており、観客が近づくとこれを感知し、観客の動きに俊敏に追随しながら、観客の撮影と、撮影した映像のプロジェクションをおこなう。インプット(撮影)/アウトプット(投影)を無限に繰り返しながら、フィードバックループを発生させるサーチアームを通じて、観客は「現在」は「ヴォイド/空虚」の繰り返しであるということを認識するようになる。
また、サーチアームの動作は、本作全体の振る舞いを統御するデータベース「欲望のコード」へと取り込まれ、インスタレーション空間内の音響、照明に反映される。
巡視する複眼スクリーン
ストラクチャーが撮影した会場のリアルタイムの映像(観客の皮膚、眼、髪、鞄......)、その5秒前/5時間前/5日前の映像、そして、インターネット上で公開されている世界中の監視カメラの映像(飛行場、公園、廊下、雑踏......)などによって構築されるデータベース「欲望のコード」。昆虫の複眼のような巨大な円形スクリーンは、61個の六角形状のセル(個眼)によって構成されており、ひとつひとつのセルにはこの「欲望のコード」からの映像が、分断されながら、混在している。このスクリーンに映し出される映像の変容や時間軸のずれを通じて、観客は分断された夢や、脳内の記憶を見ているかのような錯覚に陥るとともに、監視によって自動的に生成される欲望の存在を発見することができる。