わたしとYCAM
YCAMが魅せてくれる新しい世界
2007年、当時は長男が幼く、私ひとりでどこかへ出かけることが難しい時期だった。しかしある日、YCAMで開催されている坂本龍一さんと高谷史郎さんの展覧会「LIFE―fluid, invisible, inaudible」をどうしても見たくなり、息子を預けて、YCAMを訪れた。これが私とYCAMとの出会いである。もともとアート鑑賞が好きだった私は、休日のたびに美術館を訪れていたが、出産を機に子育て中心の日々を過ごすようになっていた。そんな日常から、本来の自分を取り戻すきっかけをYCAMが作ってくれた。当時の記憶は曖昧だが、光と影と音を浴びて、私の心身が解放されたのか、涙が自然とこぼれ落ちたことを今でも覚えている。
その後、長男が小学生になってからは、親子でYCAMに訪れることがさらに増えた。当時、自宅の近所にYCAMのスタッフの会田大也さんが住んでいたこともあって、YCAMがより身近な存在になったのである。イベントに参加すると、自分で想像力を膨らませ、形にしていくことができるようになるので、アーティストの考え方や表現していることをより理解する近道にもなった。
2012年から始まった子ども向けの遊び場「コロガル公園」のシリーズは、利用する子どもたちの要望を取り入れながら成長していく。子どもたちの意見が実際に形になる体験は、本当に貴重だと思ったし、その自由な発想を無理だと言わないYCAMの姿勢には感銘を受けた。2013年のYCAM10周年記念祭で展示された犬飼博士さんと安藤僚子さんの「スポーツタイムマシン」には準備から参加し、一緒に場を創る楽しみを共有できた。また、同時に開催されていた深澤孝史さんの「とくいの銀行」では、みんなの得意なことを活かしたイベントが数多くおこなわれた。私の得意なことであるDJも、商店街の子どもたちのダンスや縦笛と組み合わせて、商店街のコミュニティスペースでのイベントとなり、アーティストの発想力に驚かせられた。
最近では親子一緒にではなく、それぞれの興味や立場からYCAMに関わることも増えてきた。2016年に開催された人材育成ワークショップ「RADLOCAL2」では、私が働く湯田温泉地域を題材にしていたこともあり、全国から集まった参加者のみなさんと一緒にリサーチをしたり、新しいアイデアを出し合ったりした。このことは湯田温泉の見方を変えるきっかけになった。2018年には、三宅唱さんが講師を務める「中高生向け映画製作ワークショップ」に、当時高校受験を控えていた長男が学校と塾通いの合間を縫って参加した。このことが後の三宅さんの映画『ワイルドツアー』の出演へとつながり、彼が当時なんとなく夢に見ていた俳優の道に挑戦するきっかけとなった。
こうして振り返ってみると、YCAMは私にとって身近な存在であり、日々の生き方にスパイスを加え、新しい世界を魅せてくれる存在だ。そして、人の想像力を刺激してくれるアートの力は本当に素晴らしいと思う。これからも、YCAMが魅せてくれる世界を求め、足を運びたいと思っている。