わたしとYCAM
フュージョンから始まる世界
私の仕事は、人と自然が纏う空気を読み、料理をすることです。かつて人生に迷い、岐路に立った時に「食べなきゃ死ぬやん」という生活のもっとも基本となる事実に心動かされ、この仕事を始めるようになりました。自然の食材にいつも触れている私にとって、YCAMにはどこか距離を感じていたのですが、縁あってある時からYCAMで開催される展覧会のレセプションパーティーの料理を担当させていただくようになりました。
私の料理は、与えられたテーマやキーワードを、さまざまな料理法と融合させることで生まれます。YCAMの展覧会のパーティーなら、展覧会が持つ文化的/歴史的背景、スタッフの方やアーティストの方との会話や雰囲気の中から、直感的に響くものを自分の中に落とし込み、溢れ出るものを料理として表現していきます。その中で印象深いもののひとつに、2017年に開催された「HELLO, YCAM!」の際に作った料理があります。YCAMの活動を紹介するというイベントの趣旨を踏まえて、以下の5つの料理に展開しました。
- HELLO, YCAM! パーティーのはじめに人が集まる、入口のような場所をつくる。イベント名を書き出したディップをつくり、まずはここで挨拶をする。
- ワークショップ お客さまが料理に参加する機会をつくる。肉ベースと魚ベースの2種類のスープに、薬味、スパイス、タレを好みに合わせて加えることができる。
- トークセッション 多様な人々が会話をしている様を表現する。さまざまな野菜や果物、魚介のマリネなどを焼き鳥のように串刺しにし、それらを集めたもの。
- ラボ 実験室を表現する。鏡とガラスと透明な袋でできた空間に、野菜のディップやスティックなどを並べ、野菜同士の科学変化を楽しめるようにする。
- ポップアップショップ 「CHEERS!」(私が働くお店)を逆にYCAMに出店させる。普段はお店でしか買えないケーキを特別に提供する。
これらの料理はお客さまから好評をいただき、翌日には雪の中、お店まで足を運んでくださった方もいらっしゃいました。宝物のような思い出です。私の料理のように、見えないものを感じて、異なるもの同士を融合させていくという手法は、YCAMの活動と近いのではないか。最近では、YCAMとの共通したリズムや感性を見出せるようになってきました。
料理の世界では、日々、異なる文化や歴史が融合し合うことで新しい料理が生まれています。その中には、肉じゃがやあんパンのように家庭の食卓の風景を一変させたものもあります。常にテクノロジー何かを融合させているYCAMは今後、どんなものを生み出すのでしょうか?その中にはあんパンのようなものもあるのでしょうか?今後の活動を楽しみにしています。